ベストセラー『がんばらない』ほかの著書で知られる、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、8月末から9月の半ばまで世界一周の船旅を行う「ピースボート」に乗って、アテネ、ナポリ、マルセイユ、バルセロナ、カサブランカを回った。そこに引きこもりの若者約30人が参加していた。彼らと触れ合いながら、鎌田氏には気づいたことがある。
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多くの若者たちが中学校で挫折していた。思春期と関係している。視野の狭さ、思いこみ、頑なさ…すべて思春期の特徴である。それが世界を見ることで視野が広がり、船の中にはいろいろな人がいることに気づく。いろんな人がいていいことに気づく。
自分の存在も少し認められてくる。共同生活をしていれば頑なな過ごし方はできないため、少しずつ柔らかくなり、思春期の特徴が改善していく。
引きこもりは病態ではないと思った。ある状態を示しているだけ。状態なら変わる可能性はある。引きこもりというのは、正常な能力の一つで、彼らはその能力を使って引きこもっていたのだ。大事なことは長期化させないことだ。
世界を見る、ということは引きこもりの治療法の一つになるかもしれないと、彼らを見ていて僕は思った。
※週刊ポスト2010年10月22日号