尖閣諸島問題で日中が緊迫関係にある最中、中国で日本人を巡る重大事件が起きていた。舞台となったのは、北京、上海に次いで中国第三の都市といわれる広東省の省都・広州。貿易港として古くから栄えた歴史を持ち、現在も経済が活発で、日系企業が数多く進出している。
事件は、10月中旬の日の深夜に起こった。商業区域に立つ大型ホテルで、日本の有名企業の社員が7人も逮捕されたというのだ。
現地在住3年目になる商社マンは逮捕の話を耳にしたとき、まず企業名に驚いたという。
「世界的に名の通った会社で、広州にも関連企業が複数あります。事件の翌日頃から『日本から来ていた出張グループが夜の街に繰り出し、集団で買春したところを一網打尽にされた』と駐在員の間で話題になり始めた」
彼らが向かったのは、日本人向けカラオケスナックだった。といっても中国の場合は、実態は売春斡旋所に近い。カラオケを楽しんだ後、気に入った子がいれば連れ出すことができるシステムだ。広州では、日本語ができるホステスも多く、総額で2万円前後かかるものの出張族の人気は高い。
もっとも、中国国内で買春は「治安管理処罰法」で罰せられる違法行為。違反すると15日以下の拘留に加え、5000元以下の罰金、場合によっては国外退去を命じられることもある。
「彼らがカラオケから小姐(ホステス)を宿泊中のホテルに連れ込んで、服を脱ぎ、まさにことを行なおうとした瞬間に、公安員が雪崩れ込むように部屋に突入して現場を押さえたと聞きました。あまりにタイミングが良すぎる。カラオケの時点から狙われていたのでしょうね」(前出の商社マン)
逮捕現場とされるホテルを実際に取材した。車寄せ近くには〈公安〉と書かれた車両が待機し、物々しい空気。夜になると、ホテルの職員が館内を出入りする女性にルームキーの提示を求める姿も頻繁に目撃された。
現地で水商売を営む日本人女性がいう。「尖閣問題が起きてから、公安が日本人への対応を厳しくしている。家族で食事しているところを職務質問され、その場でパスポートを提示できなかったために罰金を科された日本人の話を最近よく聞きます。行政自体が不審な外国人を見つけたら通報するよう奨励し、場所によっては密告で報奨金まで出すのですから……」
よりによって、そんな状況下で違法行為に及ぶとは…。
※週刊ポスト2010年11月12日号