2010年は、新聞やテレビ、ラジオ、雑誌などのメディアのあり方が問われた年だった脳科学者の茂木健一郎氏は、「人間がさまざまな情報源とどのように向き合いコミュニケーションしていくかということは、脳の働きという視点から見ても興味深い」と語る。以下は、茂木氏の指摘である。
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最近、ふと思ったことは、テレビ、とりわけ地上波テレビはなかなかしぶとく、底力があるなということである。インターネットなどの新しいメディアが普及して、テレビの地位が低下しているなどと言われている。確かにそうかもしれないが、それでも、たとえばゴールデンアワーの番組では10%程度の視聴率は当然。単純計算で1200万人以上が見ていることになる。
インターネットがどれだけ普及したとしても、地上波テレビの番組ほど、多くの人が同時に接する情報など、そんなにはない。というよりは、これからもほとんどあり得ないだろう。
ネットと地上波テレビの違いを突きつめていくと、背後に「独占」の問題が見えてくる。地上波テレビは、結局のところ、国家の免許による独占、寡占産業。「公共の電波」は限られており、チャンネル数も劇的に増やすことはできない。そんな中で、限られたオンエアタイムを、分け合っている。
テレビは、国家を背景にした独占。一方、インターネットは何でもありの自由競争市場。ネットにおいて輝いている人と、地上波テレビで輝く人が違うのも、このあたりに原因がありそうだ。
テレビで人気のある芸人やタレントでも、ネットで人気があるとは限らない。一方、ネットで人気がある人でも、テレビの世界で「座り」が良いとは限らない。
もし、今後ネットの力がさらに増大して行くとしたら、人気者の勢力図も変わっていくかもしれない。一部の芸人さんは、そのあたりを見越して、すでにネット上での実験的試みをしている。ワイドショーに出てきて当たり障りのない発言をするコメンテーターは、ネットではあまり人気がない。テレビとネットでは、「市場」の性質が違うのである。
一度自由を味わった人間は、そう簡単には元には戻れない。視聴率のような「数字」ではテレビが圧倒的に優位でも、新しい文化を創るという実質においては、ネットがテレビをリードする時代が、当分は続くだろう。
※週刊ポスト2010年11月19 日号