戦後の高度成長で日本は物質的には豊かになったものの、生活の質そのものはグッドライフからほど遠い。今や日本を追いかけるアジア諸国と比べて、日本は「ライフスタイル後進国」になり下がったとさえいえる。そう指摘するのは大前研一氏だ。
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かつて私が「平成維新の会」を立ち上げた時、「生活コストを下げて質を上げる」ことを政策提案の基本に据えた。が、今の日本では生活をエンジョイしようとするとコストがロケットみたいに跳ね上がる悲しい現実がある。行政の怠慢は大いに責められるべきだが、実は他にも要因が存在する。
「新品は高く」「中古品は安く」という日本独特の現象だ。とくに顕著なのが住宅で、新築の4000万円の家を買った翌日に転売しようとしても、よほどの優良物件でなければ3000万円ぐらいの値しかつかないだろう。
欧米やオーストラリアでは買った時が一番安く、その後は上がっていくのが一般的だ。だから投資対象になるし、日本と違って購入後のメンテナンスにも力を注ぐ。日本では、この「新品至上主義」もあって、価値に見合った価格が認められていないのである。
車も同様で、私の経験では新車価格600万円のレクサスが、半年後の査定で300万円台になった。これがオーストラリアだと、600万円で買い、12年間で20万キロ走ったパジェロに350万円の値がついた。このように中古でも高い値で売れるのが世界の常識であり、住宅や車は貯金に代わる資産でもあるのだ。
「国民の生活が第一」をマニフェストに掲げて政権交代を果たした民主党だが、実際にはバラまき政策によって国の借金を膨らませただけで、生活の向上には何ら貢献していない。党内で「生活の質(QOL=Quality Of Life)」の研究をしている様子もない。
それを批判することはもちろん大事だが、経済力や技術力に見合った「グッドライフ」を自治体が提供するように生活者は要求すべきである。高いQOLを本気で享受したいのか、その決意が国民に問われている。
※週刊ポスト2010年11月26日・12月3日号