火葬場に併設している保管庫などに遺体を安置し、家族など親しい人だけで葬儀を行ない、弔問客を招く通夜や告別式を省略して火葬する「直葬」が増えているという。だが、そうした“節約葬”を行なったとしても、多くの場合は寺や霊園に永代供養費を払わねばならず、費用としては30万~50万円かかるとされる。今や「貯蓄ゼロ世帯」が20%超という中で、仙台の元自衛官が親の遺骨を放置する事件が発生したのと同様の行為を行う者が出てくることも無理はない。
「墓が買えない」、「葬式が出せない」という貧困層の「死後」は、今後、どうなっていくのだろうか。
遺体の処理を定めた「墓地、埋葬等に関する法律」では、遺体は荼毘に付さなければならない。したがって、これが最低限の出費となるわけだが、公営の火葬場がある大阪市でも1万円、東京都内では4万~5万円が相場である。
遺骨の処理はどうか。同法では、「埋葬または焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に行なってはならない」と定められ、私有地でもあっても遺骨を埋めれば罰せられてしまう。ただし、埋葬せずに海や野山に撒く「散骨」は可能だ。1991年、法務省刑事局は「節度をもって葬送のひとつとして行なう限り問題はない」という見解を出している。普通の墓を作る場合より、圧倒的に安く上がる。
しかし、これも“全面OK”ではない。91年以降、風で骨が舞う、地下水を汚染しかねない、あるいは近隣の農産物の風評被害を招くなどという理由で、遺族と散骨先の住民とのトラブルが頻発した。そのため、2008年に「何人も墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない」と条例で定めた埼玉・秩父市をはじめ、「散骨禁止・規制条例」を設ける自治体が急増している。
また、「散骨地」を所有する散骨業者に委託するという手段もあるが、こちらは費用が20万円前後かかる。勝手に埋めるのもダメ、撒くのもダメとなれば、遺骨にはできてもその処理に困ってしまう。年間1万体以上を火葬する都内の葬祭場の関係者が明かす。
「火葬の後、遺族が『供養費は出すから、そちらで何とかして』と遺骨の持ち帰りを拒否するケースが増えています。かつてはゼロに近かったが、今では年間200体ほどに上ります」
※週刊ポスト2010年12月17日号