内部告発サイト「ウィキリークス」に関する日本国内の報道を見ていると、まるっきり他人事のようだ。やれアサンジ代表が逮捕されたの、クリントン米国務長官が各国に謝罪したのと、ちょっと登場人物が高級なワイドショーのノリだ。
が、この問題をこんな扱いにしているのは日本だけである。暴露情報に関係した各国では、メディアが自国政府の嘘や秘密の検証、諸外国との関係に与える影響などを総力取材し、報道合戦を繰り広げている。
では、日本は今回の暴露の標的になっていないのかというと、そうではない。日本政府がひっくり返るような秘密が、ちゃんと暴露されている。それを無視しているのは大マスコミである。どうやら日本に関して暴露された情報は、政府以上に彼らにとって都合の悪いものだったようなのだ。
同サイトが日本の「何」を暴露したのか考えると、その理由が見えてくる。元駐レバノン大使で作家の天木直人氏が指摘する。
「要するに、日本が対米従属国家であることがはっきりしたということです。米国務省の公電を見れば、日本がアメリカの先兵となって動いてきたことがわかります。小泉純一郎・元総理がいったように、アメリカとの関係さえよければいいという馬鹿げた考え方が明らかになった。こういう政府に不利な情報をきちんと報道しないメディアの姿勢にも疑問を感じます」
具体的に見てみる。第一に注目すべきは、2009年9月に米国務省が各国の米大使館に宛てた公電に記された以下の文言である。
〈今後、海上配備ミサイル「SM3ブロック・A」を含む十分な数のミサイル防衛システムをNATOやヨーロッパの同盟各国に輸出できるようにしたい。日本政府が、そのために必要な戦略的な意思決定をできるよう強く望んでいる〉
SM3ブロック・Aは、敵国のミサイル攻撃に対する迎撃用ミサイルで、アメリカは将来的にそのネットワークを世界中に広げたいと考えている。ただし、同ミサイルはまだ開発中で、共同開発国は日本である。
現在でもそうだが、ミサイルの誘導や追尾システムにおいて、日本の技術は群を抜いている。ミサイル防衛システム構築に日本の協力は不可欠なのだ。
ところが、日本には武器輸出三原則がある。・共産圏、・国連議決で禁じる国、・紛争当事国には武器を輸出できないことになっている。佐藤栄作内閣が1967年に定めた方針であり、法的拘束力はないが、歴代政権はその原則を踏襲してきた。従って、日本が開発したミサイルは簡単には輸出できないことになる。
先の公電は、その原則を変えさせるという米政府の方針を通達したものだ。事実、直後の2009年10月にはゲイツ国防長官が来日して北沢俊美・防衛相に対し、三原則の見直しを迫ったのである。
そして菅内閣が発足すると、「対米従属派」の筆頭である前原誠司・外相が中心になって、「三原則の見直し」が急浮上した。つまり、アメリカのいいなりになったわけである。
そもそも三原則は、第一に共産圏への輸出禁止を掲げていることからもわかるように、アメリカの要求で佐藤内閣が決めたものだ。佐藤内閣はCIAから秘密の資金提供を受けていたとされている。さらに、後には「アメリカへの輸出は三原則の例外とする」など、アメリカの都合で内容が見直されてきた経緯がある。
※週刊ポスト2010年12月24日号