国立国際医療研究センター産婦人科非常勤医師の荻野満春医師、研究指導者の箕浦茂樹医師らは「温水洗浄便座は使いすぎると危険」と警鐘を鳴らしている。
通常、女性の膣内には体によい働きをする「善玉菌」である乳酸菌が常在する。乳酸菌がブドウ糖から乳酸を作ることで膣内を酸性に保ち、体に悪影響を与える腸内細菌・雑菌や真菌など「悪玉菌」の侵入を未然に防ぐ役割をしている。
「ところが、10年ほど前から、おりものの増加で受診する女性の膣内の乳酸菌が減り、本来いないはずの悪玉菌が検出されるケースが目立つようになってきました」(荻野医師)
膣内の善玉菌が減って悪玉菌が繁殖している状態を「細菌性膣症」という。
「細菌性膣症は強い炎症反応を伴わず、かゆみなどの自覚症状もほとんどなく、おりものの増加で産婦人科を受診して初めてわかることが多い。原因は明確でなく、これまでは性行動の多様化が一因とされてきました」(荻野医師)
ある日、荻野医師はひとりの患者から「でも毎日欠かさず洗浄して、清潔にしています」という答えを聞き、温水洗浄便座と細菌性膣症の関係に注目、調査を始めた。
おりものの増加を訴えて産婦人科を受診した19才から40才までの女性298人を対象に2007年9月から本格的な調査を開始。トイレで常に温水洗浄便座を利用する女性を「使用者」(154人)、まったく使用しない女性とたまに使う女性(144人)を「未使用者」と二分し、膣内分泌物を調べた。
すると温水洗浄便座の使用者は、未使用者に比べて約5倍の確率で膣に本来必要な乳酸菌が消失していることがわかった。また、悪玉菌である腸内細菌の検出率については、膣内で悪玉菌が見つかった女性のうち9割以上が「使用者」という結果だった。さらに「使用者」についての調査では、乳酸菌がいた人の中にも悪玉菌である腸内細菌による汚染が認められる人が約3割もいた。
「乳酸菌がいれば防御作用により、腸内細菌は撃退されているはず。それなのに悪玉・善玉の“両菌”が同居しているということは、善玉菌が防御しきれない量の悪玉菌が外部から侵入したと考えられます。その原因が温水洗浄便座の使いすぎなのではと考えられるのです」(荻野医師)
※女性セブン2010年12月31日・2011年1月1日号