民主党政権の失政を振り返ると、寒くなる。「百害あって一利なし」だった2010年の民主党政権を、大前研一氏が総括する。
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民主党政権の失政は数え上げればキリがないが、最大の問題は「外交」だ。
自民党が半世紀かけて構築してきた対外関係を、民主党はことごとく破壊してしまった。これは他の国ではあり得ないことで、史上最低の外交と言っていい。
たとえばアメリカの場合、政権交代が起きれば対外関係のニュアンスは変わるものの、根本的な付き合い方を変えることは絶対にない。イギリスも同様だ。
2010年5月に誕生したデービッド・キャメロン首相率いる保守党・自由民主党連立政権は、内政に関しては財政支出の10兆円カットや公務員の50万人削減など労働党政権と全く違うことをやり始めたが、対外関係のスタンスは変えていない。それどころか、ゴードン・ブラウン前首相時代はぎくしゃくしていたフランスとの関係を、飛躍的に改善してしまった。
ところが民主党政権は、あろうことか日本にとって最も重要なアメリカ、中国、ロシアとの関係を台無しにした。
まず鳩山前首相が、日本・アメリカ・中国の関係は「正三角形」であるべきだと言ってアメリカを激怒させた。アメリカが鳩山前首相と会わなくなった原因は、日本では普天間問題と言われているが、私は違うと思う。
アメリカも普天間問題の解決が難しい事情は理解している。しかし、日・米・中「正三角形」論は容認できなかった。どう中国と対峙していくかを議論している時に、一衣帯水の緊密な関係を築いてきたはずの日本の首相が「正三角形」論を唱えたことに憤り、民主党政権は反米的だとみなして警戒を始めたのである。
中国との関係悪化は、すでに過去に私が指摘したように、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で、前原誠司外相らが「国内法で粛々と…」と言ったことが原因だ。尖閣諸島の領有権問題は、両国間で議論すると収拾がつかなくなるから政治マターにするのは極力避け、日本の実効支配を認めて棚上げにしようという約束になっていた。
つまり中国は、尖閣諸島の領有権問題は保留状態だと思っている。そこのところを狡猾な自民党政権は、日本の国民には「尖閣諸島は日本固有の領土だ」と言いながら、中国との外交上は棚上げにするという「二枚舌」を使い、曖昧なままでやってきた。ところが、幼稚な民主党政権は「国内法で粛々と…」という「禁句」を使い、寝た子を起こしてしまったのである。
※SAPIO2011年1月6日号