金正日総書記から三男・正恩氏へ。不安定な権力移行期の今、北朝鮮に何が起きているのか。不穏な動きを関西大学経済学部教授の李英和氏が内部情報をもとに解説する。
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11月23日に発生した韓国・延坪島砲撃事件は決して緻密な計算に基づく北朝鮮の外交戦術ではない。また、軍強硬派の不満分子が暴走した結果でもない。蛮行の主犯は、金正日の義弟・張成沢(国防委員会副委員長)最側近のひとりで、人民軍トップに上り詰めた李英鎬である。守旧派との長年の権力闘争を勝ち抜き、主導権を握りかけた張成沢派の暴走だ。この点こそが問題の核心部分である。
もちろん、今回の砲撃は金正日の裁可なしにはあり得ない。だが、心身ともに病魔に侵された金正日がまともな思慮分別をもって署名したとは思われない。実際、韓国有力紙『中央日報』の日曜版は、「北京亡命中」の金正男の次のような発言を紹介している。
「父が認知症の症状を見せ始めてから業務をあまりしない」「過去、父が仕事をするときはすべて、いくら強硬でも、ある種のメッセージがあったが、今はいったい何が何だか分からない」(6月6日付『中央サンデー』)
ここに事態の複雑さと問題の深刻さが潜む。金正日の判断能力と統率力が減退し、他方で「後継者」の金正恩はまだ使い物にならない。この不安定な権力移行期に、張成沢が持ち前の剛腕に物を言わせて強引な人事を断行してきた。だが、張成沢一派は、アキレス腱の軍部で猛烈な反発に直面している。抗争の行方によっては金正恩が握る「核のボタン」が標的にされかねない。
今回の蛮行が内部要因、それも人民軍内部の人事抗争によるものなら、局外者が解決を模索するのは困難きわまりない。ましてや、中国の勧めに応じ、対話や支援に乗り出したからといって、打開できる性質のものではない。
私見では、有効な手段は2つしかない。中国はとうの昔に賞味期限の切れた「6者協議」の再開提案を持ち歩くのではなく、北朝鮮との軍事同盟(中朝友好協力相互援助条約)を即刻破棄することである。これで事態の沈静効果がなければ、残された手段はひとつである。
北朝鮮は米韓合同軍事演習に対して「狂犬に棍棒を」と絶叫調で警告を発している。これをそっくりそのまま北朝鮮に返すことである。
※SAPIO2011年1月6日号