最近、中国の歴史教科書が変わりつつあるのだという。経済発展を遂げてようやく、中国共産党の主導してきた「反帝国主義闘争の歴史」が世界標準ではないことに気づいたというわけだ。しかし、全く変わっていない記述がある。捏造資料にもとづいた反日史観である。拓殖大学客員教授の藤岡信勝氏が解説する。
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中国の歴史の教科書には、注目すべき動きがあるとはいえ、当局にとって都合の悪いことは記述しないという原則は不変だ。
『歴史と社会』は第2次世界大戦後の失敗と挫折として「大躍進」や「文化大革命」についても説明し、また改革開放による中国の発展を記述しているが、中国共産党が弾圧した「チベット」の歴史には一言も言及していない。
この歴史教科書の中で看過できないのは「抗日戦争」の部分である。 経済発展の中で、グローバルな人材を育成するために世界史の観点が大幅に導入され、かつ簡略化されているにもかかわらず、「抗日戦争」については「第五課 万民の心を一つにした抗日戦争」として7ページに渡って詳述している。写真もふんだんに掲載されている。
「731部隊の人間細菌実験」「南京の百人斬り」など、日本ではすでに間違いであると証明されている写真がたくさん使われているのである。
甚だしくは「東史郎」を写真とともに紹介し、英雄扱いしていることだ。「東史郎は当時南京大虐殺に参加した日本の老兵である。彼は、歴史の真実を世に知らしめるため、侵略戦争時期の日記を発表した」と説明しているが、彼は、その日記をめぐって元上官から名誉毀損で提訴され、2000年、日本の最高裁で敗訴している人物だ。
中国の歴史教科書は、その歴史観を変えても日本に対する記述だけは変わることがない。それは、唯一、中国共産党の正統性の根拠となる歴史だからである。
2008年に発行された『歴史と社会』の教師用指導書には、第五課の抗日戦争の「教学要求」として、「日本が始めた中国侵略戦争が前々からたくらんでいたもので、日本侵略軍は中国を侵略する過程で甚だ大きな犯罪行為を犯しており、血の教訓は永遠に心に刻むべきだということを認識できる」と書いている。
抗日戦争に関する限り、捏造された歴史は全く変わっていないのである。
※SAPIO2011年1月6日号