大学への進学率が上がる一方で、底辺校といわれる大学では、学力の低い学生の存在に頭を悩ませている。千葉のある工業系大学で基礎数学の授業を受け持つ講師がいう。
「微分・積分など、高校レベルの学力がない程度ならばまだマシな方です。一次関数までレベルを下げてもまだ理解できない学生が多かったので、ひょっとしたらと思って九九の計算を解かせてみたんですが、全問正解したのは半数以下で仰天しましたよ」
こんな学生を、エンジニアとして就職させるのは不可能だ。埼玉大学教授の岡部恒治氏はこう語る。
「私が『分数ができない大学生』という著作を出してから10年が経ちますが、大学生の学力は当時よりもひどくなっている。現在、大学の半数以上は、正規の授業やゼミとは別に、小学生から高校生レベルの国語、数学などの補習授業を行ない、学び直させているんです」
埼玉の某大学で英語を教える講師はこう打ち明ける。
「ウチの大学では、中学1年生が最初に教わるI、MY、ME、YOU、YOUR、YOUといった人称代名詞から学び直しています。アルファベットの順番がわからず、辞書すらまともに引けない学生が多いですから仕方がない」
ついには、小学校の「国語」さえまともにできない大学生も出現している。中国地方の某大学では、学生と教員の間で「交換日記」をつけているという。学生は、「つまらなかった」程度しか書けない。そこで教員は、「いつ、どこで、何があって、どのように、つまらないのかを書かないと伝わらないよ」と、5W1Hを教えるところから始めている。
学力低下を嘆いているのは、“最底辺”の大学だけではない。名門・早稲田大学では「1万人シリーズ」と銘打ち、同大に入学する新入生約1万人に対し、インターネットを使ったリメディアル教育(補習授業)を施している。
科目は、日本語、数学、英語の3つ。例えば日本語の授業では、レポートの文献の引用の仕方について「書物に書かれている内容と自分の考えの区別が分かるように書く」といった基本的な事項を教えたり、毎週400字程度の作文を課して、クラス指導員がコメントと評価点をつけて返却したりしている。
※週刊ポスト2011年2月25号