この就活地獄の中、自衛隊出身者は「就活地獄でも引く手あまた。採用担当者たちは、なぜ自衛隊出身者を高く評価するのか。隊員時代に取得した資格も、高評価を得る理由のひとつだ。
陸上自衛隊によると、ほぼ毎年約5000人が退職するが、その約半分は20代の任期制自衛官(※)だ。こうした若い世代の再就職を支えるため、防衛省所管の財団法人「自衛隊援護協会」などが、再就職支援を行なっている。
彼らは退職3年前から、「業務管理訓練」や「技能訓練」を通した職業訓練で、調理師やパソコン技能など多様な資格を取得することができる。任務の一環であることが多く、その場合は取得費用はかからない(取得できる主な資格は下記参照)。
現在は都内の人材派遣会社で勤務する40代の元陸上自衛官は、高校卒業後に入隊し、1任期2年を終えて退官した。
「自衛官時代に一から通信技術を学び、駐屯地の航空通信士を務めました。退官後は大阪のプログラム会社に就職。プログラマーの技能を持っていたわけではありませんが、通信技術を通じた基礎能力が評価されて就職できました」
自衛隊での実務経験そのものが後の仕事に活きるケースもある。現在、ビルメンテナンス会社の業務部長を務める金子正明氏は、退官後はフジテレビで警備部長の職に就いた。
「当時は局への出入りが自由で、高級機材や財布の盗難が頻発していました。そのため、自衛隊での『危機管理』の経験をもとに、警備計画やどこにどんな危険が生じるかという危険見積もりを立て、入場セキュリティを強化。盗難はピタッと止みました。お台場に移転する際には、入場ゲートを設け、ICによる入行証を導入。今でこそ各テレビ局が当たり前のようにやっていますが、当時は反発もありました。でも自衛隊で『危機管理』とは何かを把握していたからこそ、根拠を示してやれたと思っています」(金子氏)
※任期制自衛官…採用後「自衛官候補生」(特別職国家公務員)に任命され、所定の教育を受けた後に2~3年を1任期として勤務する2等陸・海・空士のこと。勤務期間は3任期程度が目安となり、その後は昇格試験を受けて正隊員になるか、民間企業や団体への就職を目指す。退職者のほとんどが20代である。
【自衛官時代に取得できる主な各種資格・免許】(ほかにも多数あり)
・航空管制官
・小型船舶操縦士
・自動車整備士
・ボイラー技士
・危険物取扱者
※週刊ポスト2011年2月25日号