地上デジタル放送への完全移行まで5か月。その準備のために、テレビ局が全国でアンテナなどの地デジ専用の中継局を次々に設置している。しかし、テレビ局がその費用を「お上」におねだりし、私たちの携帯電話料金が充てられていることをご存じだろうか?
3年ほど前から、山間部や海岸沿い、つまり電波の届きにくい難視聴エリアに、地デジ専用アンテナの建設が進められている。その数、全国で900か所超。いずれも、民放各局やNHKが地デジ放送のために独占的に使用しているものだ。
しかし、これらのアンテナ建設費用約200億円のうち、民放テレビ局の負担は半分だけ。残りは国の補助金で賄われている
2008年度にスタートしたこの事業の名称は「デジタルテレビ中継局整備事業」。2010年度には716局で43億円。2011年度には局数は未確定ながら、20億円の補助金が計上された。
この補助金は、「電波利用料」から支出されている。
電波利用料とは、違法電波による混信障害などから既存の電波環境を守る目的で作られた制度であるが、その大半を負担しているのは携帯電話ユーザーだ。
今年度の電波利用料の歳入予算は約712億円。うち543億円(76%)を負担しているのが携帯電話会社である。
一方で、テレビ局の負担額は、たった50億円程度(7%)。つまり、地デジアンテナの補助金の大半は、私たちの携帯電話料金なのだ。
また、地デジ移行のための送信施設整備や家庭のアンテナの向きを変える作業に、1600億円もの電波利用料が投じられてきたのだ。
なぜ電波利用料という「国民のカネ」でテレビ局の専用アンテナが建てられているのか。総務省地上放送課に問うと、「デジタル放送波という公共の電波を寸断なく全国に届けるため」と説明する。
地デジ政策に詳しい福井秀夫・政策研究大学院大学教授は、この詭弁を一刀両断する。
「中継局の新設によって、電波のカバーエリアが拡大するわけですから、視聴者獲得や広告収入増に寄与し、テレビ局の利益になる。つまり、アンテナ建設はテレビ局の純粋な営利行為です。公共の電波といったお題目で正当性を取り繕おうとしていますが、自分たちが使う中継局は自分たちで建てるのが筋です」
実際、テレビやラジオの電波を発信する東京タワーは、主に民放キー局などからのテナント収入(電波塔利用料)で運営されており、タワー建設の際に補助金は投入されていない。
改めて総務省にぶつけると、本音を吐いた。「経営的に厳しい放送局が多い中、費用がかさむ僻地などへの中継局設置を強いるのは酷なので……」――つまり、“テレビ局の経営を助けるため”と言い放ったのである。
しかし、テレビ各局はいま、バブルを迎えている。先頃、出揃った民放キー局の2011年3月期連結決算見通し(予測)には、驚くような数字が並ぶ。筆頭は日本テレビで、売り上げ2970億円、経常利益の見込み額は前年比44%増の390億円。この経常利益額は「バブル全盛時とほぼ変わらない」(日テレ社員)という。
フジテレビも売り上げ5921億円、経常利益は同122%増の267億円。赤字転落必至と見られていたTBSでさえ、同133%増の91億円の経常利益を見込んでいる。
これらはコスト削減の賜物ではない。ボロ儲けの収益構造を支えているのは、格安に設定された「電波利用料」にこそある。
本誌が情報公開請求によって入手した、各局の2009年度の電波利用料納付額を見ると、日本テレビの支払った電波利用料は年間わずか4億3000万円で、年間売上高に占める割合は約600分の1。他のキー局も、公共の電波を格安で仕入れ、その数百倍の収益を上げている点に変わりはない。地方局を合わせた全国128局で見ても、総売上高は3兆円近いというのに、払った電波利用料の総額はわずか約50億円である。
これだけ“公共の電波”で自分たちの懐が潤っているのなら、山間部や海沿いにアンテナを建てるくらい自前でやるのが当然である。
※週刊ポスト2011年3月4日号