内職でミシンを使って服をつくるおばちゃんたちと二人三脚で成長してきた子供服メーカー・マルミツアパレルは、2010 年9月に、子供服ブランド「JIPPON(ジポン)」を立ち上げた。「JIPPON」という名前には「日本(JAPAN)でつくるズボン」という意味を込めた。最大の特徴はズボンのウエストのゴムバンドの縫製にあった。それまでの子供用ズボンは、バンドの縫製が雑で、はいているうちにケバ立ちが目立つようになり、子供たちはチクチクする感触を嫌がることが多かった。そしてそれらの多くが「メイドインチャイナ」――中国で作られたズボンだった。
「JIPPONは内職おばちゃんたちの職人技の集大成です。10年近く改良を重ねて、ようやくこの履き心地にたどりつきました。特にウエスト部分のゴムバンドの縫製は、職人のリズム感や勘があってこそ。見た目だけなら真似できるでしょうが、履き心地は絶対に真似できませんよ」(光實庫造社長)
中国製品とも競争できる1点1995円の価格も、彼女たちがその高い技術を惜しみなく提供してくれることで実現したものだ。品質の良さとお手頃な価格の評判はすぐに口コミで広がり、瞬く間に全国で売られるようになった。気がつくと、「JIPPON」のズボンは月3500本を売り上げるヒット商品となっていた。
ヒットを知ったあるメーカーから、「中国でやらないか」という声がかかったのはその矢先のことだ。光實社長はふたつ返事で答えたという。「“やります”といいましたよ。ずっと前から、いつか中国に仕返しをしたいと思っていましたから」
中国の勢いに圧倒され、一時期は仕事がなくなってつらい日々を味わった多くの内職おばちゃんたちにも期する思いがあったはずだ。
「私たちはみんなミシンには自信がある。ようやく“そのとき”が来たという気持ちでした」(藤原さん)ただし、中国は服飾輸入に高い関税をかけており、流通経費などを加味すれば価格は通常の中国の子供服の約10倍、4500円ほどにせざるを得ない。
しかし、光實社長にはそれでも勝算があった。経済成長で豊かになった中国人の富裕層は月に4万5000円ほど、中間層でも2万円程度は子供服に使うというデータがあったからだ。「高すぎる」と難色を示す中国のバイヤーに光實社長は訴えた。「日本人が縫っています。彼女たちには何十年のキャリアがあります」
一歩も退かぬ熱気についにバイヤーも折れた。「おばちゃんには30年、40年のキャリアがある。中国でこれほど長くミシンに携わっている人はいません。彼女たちの頑張りと根気はすごい。そんな日本のおばちゃんたちが縫うこと自体が、中国人にとって大きなブランドなんです」(光實社長)
そして昨年末、ついに上海の富裕層向け子供服専門店の店頭に「JIPPON」が並んだ。商品のひとつひとつに、「品質保証日本国製」と書いた布を付け、タグには縫製担当者の名前のハンコ。その傍らには内職のおばちゃんの写真を添えた。何十年とミシンを踏んできた日本の内職おばちゃんたちの技術力をアピールする作戦だ。
中国の富裕層たちの反応は想像以上に早かった。1年かけて売り切れるかどうかと考えていた3000本を2か月で完売。現在も順調に売り上げを伸ばしており、今後は上海だけでなく、北京や他の地域でも販売する見通しだ。
この快挙に、内職主婦の藤原さんも笑顔を見せる。「中国で売れたことは嬉しいです。つらいこともあったけど、いまは昔のことを忘れるほど楽しい。ミシンをやっていて本当に良かったと思います」
光實社長もリベンジ達成に興奮を隠せない。「中国はモノマネが得意だけど、商品ができるまでのプロセスは真似できない。内職という言葉は中国にはないんです。これは技術者集団の逆襲です。普通だったら忘れられる存在のおばちゃんたちがスポットライトを浴びている。おばちゃんたちは日本を変える力を持っているんです」
※女性セブン2011年3月10日号