エコカー開発で日本車メーカーは圧倒的な優位に立ってきた。だが、中国で本格的な電気自動車(EV)の開発・導入政策が進めば、一気に日本が後塵を拝する事態もありうる。日本勢が今後も主導権を握るための“新EV革命”を大前研一氏が提唱する。
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現在のプラグイン式のEVは、充電に時間がかかるという問題がある。
たとえば、日産の「リーフ」は、急速充電器で0%→80%の充電に約30分、家庭用200Vコンセントで0%→100%の充電に約8時間かかる。三菱の「i-MiEV(アイ・ミーブ)」も、パワーダウン警告灯点灯後からの充電時間が、急速充電器で80%充電に約30分、フル充電に家庭用200Vコンセントで約7時間、家庭用100Vコンセントで約14時間だ。
フォード・モーターが「充電時間はライバルEVの半分」とアピールしている来年発売予定の「フォーカスエレクトリック」でも、フル充電には240Vチャージャーを使って3時間かかる。これでは自宅と道路沿いのあちこちに充電施設が必要になるうえ、もし充電インフラが整ったとしても、充電に30分以上かかるようでは非常に不便だ。
そこで私は、充電インフラと充電時間の問題を解決してEVの普及を早める方法を提案したい。それは、EVの電池を「カセット式」にして簡単に交換できるようにすることだ。そして既存のガソリンスタンドに充電済みの電池パックを大量に並べておく。
EVユーザーは電池の残量が少なくなったら、ガソリンスタンドに行って充電済みの電池パックに交換するだけ。取り外した電池パックは、スキューバダイビングのタンクに空気をチャージするように、ガソリンスタンドが充電しておく。これなら新たに充電インフラを造る必要はないし、ユーザーが充電時間を待つ必要もない。
しかも、この方法だとEVの価格を大幅に引き下げることができる。いまEV用のリチウムイオン電池は100万円ぐらいする。仮にEV全体の価格を235万円(量産化で安くなった場合)とすると、電池が100万円で、それ以外の部分が135万円というコスト構造になっている。
だが、電池をカセット式にすれば、車と一緒に電池を買う必要がなくなる。電池パックは借り物であり、ユーザーはガソリンスタンドで交換した時に2000円なり3000円なり、1回分の使用料を払うという概念だ。その金額は、電池の製造コストと寿命、充電にかかる電気代、脱着作業の手数料などの合計から逆算して割り出せばよい。これで300kmぐらい走行できれば、一気に普及が進む。電池の製造コストも、日本の自動車メーカーが標準化に合意して大量生産すれば安くなる。
つまり、カセット式ならEVの価格は235万円ではなく135万円になるのだ。これまでにもカセット式電池パックの活用は各社が模索しており、現実には規格の標準化などの課題も残る。
それでも、この方式は充電インフラと充電時間の問題を克服できるうえ、EVの価格が一気に安くなって普及に拍車がかかり、経営が苦しいガソリンスタンドも潰れずに済む。まさに“一石三鳥”なのである。
※SAPIO2011年3月9日号