おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』『魂の声 リストカットの少女たち』などがある。おぐに氏が、「米国人と国歌」について解説する。
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日本人の間で「君が代論争」になると、必ずこんな意見が飛び出す。「アメリカ人を見てみろ。誰もが星条旗と国歌を心から敬い、国歌を誇らしげに歌ってるじゃないか!」と。 実際、日本人の目から見ると、アメリカ人ってまるで、星条旗や国歌を偏愛してるかのようだ。
ジャーンジャジャンジャンジャンジャーン、と国歌が流れ始めた途端、その場にいるほぼ全員のアメリカ人が反射的に立ち上がり、帽子を取り、右手を胸に当てる。そして歌いだす。「Oh, say can you see(ああ、見えるだろうか)」と。
ただし、ここからの展開は、意外と日本人にはよく知られてない。威勢よく歌いだしたアメリカ人たちは、しかし、途中でなぜか声量を落とす。そして、モゴモゴモゴと小声で周囲に合わせ始めるのだ。
さあ、いよいよサビの部分。「Oh, say does that star-spangled banner yet wave(ああ、星条旗はまだたなびいているか?)」あたりで彼らは再び元気を取り戻す。
そして最後は胸張って、高らかに歌い上げる。「O’er the land of the free and the home of the brave(自由の地、勇者の故郷!)」と。
まぁ、そんなわけだから、2月の国民的行事「スーパーボウル」で国歌斉唱した歌手クリスティーナ・アギレラさんが歌詞を間違えた、というニュースを聞いた時も、さもありなん、と思った。だって彼女が間違えた箇所って、アメリカ人の多くがモゴモゴになる箇所だもん。
彼女は後日、「興奮して頭が真っ白になっちゃったの。私のこの愛国心がどうか聴衆に伝わってますように」みたいなコメントをしてたけど、私の周囲じゃ目くじら立てた人は誰一人いなかった。「アメリカ国歌の歌詞って覚えるの、結構難しいもんな~」などと、みんな彼女に同情的だ。
そもそも、ある調査によると、アメリカ国歌を正しく歌えるのは国民の4割程度に過ぎないんだって。国歌大好きに見えるアメリカ人でも実際はこの程度だなんて、ちょっと安心(?)しちゃうよね。
※週刊ポスト2011年3月18日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第136回より抜粋)