国際情報

エジプト民衆が怒った穀物高騰の黒幕は売上高8兆9400億円

 世界規模の食糧価格高騰の要因のひとつに挙げられる投機マネー。食糧の高騰問題の黒幕について、産経新聞編集委員・特別記者の田村秀男氏が解説する。

* * *
 米国景気が少し上向き、世界はぼつぼつリーマン・ショック後の低迷から立ち直るかと思いきや、騒然としてきた。金融機関救済のために米連邦準備制度理事会(FRB)が垂れ流すドル発行量は平時の2.4倍に上り、その一部が金融機関の投機資金と化して穀物や原油市場になだれ込む。

 国際商品価格の上昇は、各国の消費者物価を押し上げるが、地域や国によって影響度は異なる。中東・北アフリカやサハラ砂漠以南のアフリカ地域が最も影響を受けやすい。アルジェリア、チュニジア、エジプト、イエメン、リビア、バーレーン、イランなどと中東・北アフリカで騒乱が続いているのは偶然ではないし、インフレが長期独裁の政治体制への不満を一挙に爆発させた。

 一体、どこの何者が、どういうからくりで穀物や原油の相場を押し上げるのか。エジプトの食糧高騰に至る道筋をたどってみると、2010年8月初めのモスクワに行き着いた。世界最大の商品トレーダー、グレンコア社(本社スイス・バール市)の国際穀物部門の幹部は当時、モスクワでメドべージェフ政権に対し、「ロシア産穀物の輸出禁止の大統領令を出すべきだ」としきりに説いていた。表向きの理由は、旱魃のために小麦が不作で国内需要を満たせるかどうかはっきりするまで、9、10月の輸出用の出荷を止めるべきだ、という。だが、本音は値上げの実現である。

 当時、国際穀物市場では「ロシア不作」の情報が流れ、穀物相場が急上昇を続けていた。この結果、南ロシアの穀物は産地渡し価格でトンあたり218ドルまで上がり、さらに業者は輸出港までの運送費などで50ドルを負担する。ところがエジプト向けの契約では240ドルで引き渡す約束で、巨額の赤字になる。そこで大統領命令をお墨付きにして「不可抗力条項」を適用し、大幅な値上げを輸入側にのませる戦術である。

 ロシア農業省次官はこれを拒否し、「在庫は十分あるので輸出に支障はない」との見解を英フィナンシャル・タイムス紙に流した。ところが、メドべージェフ大統領はその2日後、グレンコアなど輸出業者の要請を全面的に受け入れた。中東・北アフリカ向けの穀物価格は急騰し、アルジェリア、チュニジア、エジプトなどと民衆の怒りが爆発していく。

 グレンコアは非上場で謎が多いが、世界40か国にオフィスを持ち、2009年の売上高は1064億ドル(円換算約8兆9400億円)。1974年創業で、創始者は伝説的な商品トレーダー、マーク・リッチ氏(76歳)である。

 ご法度のイラン貿易に手を染めたり、脱税の容疑で米国から17年間以上も国際指名手配された揚げ句、2001年1月20日のクリントン政権の最後の日に大統領特赦を受けた。イスラエルやクリントン財団に莫大な寄付を行なったからである。リッチ氏はグレンコアを94年に仲間の業者に売却、現在はスイス・ルーサーン湖のほとりの豪邸で、ピカソやルノワールなどの名画に囲まれ悠々自適の生活だが、その国際政商としてのパワーは遺伝子として現経営陣に引き継がれている。

※SAPIO2011年3月30日号

トピックス

希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト