東北関東震災は、3月11日金曜日の午後2時46分に起きた。その週の株式市場が終わる14分前だった。その数分間で株価は急落したが、本当のパニックは翌週の市場が開いてからだった。
月曜、火曜の2日間で日経平均株価は1649円も下げた。株式市場だけで、失われた国富はざっと50兆円以上に上ったのである。ただし、この急落は「人災」だという指摘もある。
「あのような大災害があれば、金儲けだけを考える海外のヘッジファンドは、まず一斉に空売りをかけて危機を煽り、十分に下げたところで買い戻して巨額の利益を得ようとする。事実、そうした動きがありました。それは予想されたのだから、市場を開けることは良いとしても、少なくとも空売りを禁止するとか、大口の空売り注文の発注者を公表するなど、“火事場泥棒は許さない”という日本市場のメッセージを示すべきだった」(金融ジャーナリスト・小泉深氏)
具体的には、経済停滞や保険金支払い増大などを懸念した金融株の下げが目立った。原発事故や計画停電を引き起こした東京電力の株価が急落したのは当然としても、思惑ばかりが先行するマネーゲームの様相を示していた。
「現実には、この地震で銀行の業績が落ちることなどあり得ない。むしろ復興事業で巨額の資金需要が生じるから、ビジネスチャンスを拡大する可能性も十分ある。手持ち株の価値下落は確かに痛いが、昔のように株を大量に保有しているわけではないので、その影響も限定的だ。株価下落は実態を反映していない」(メガバンク幹部)
事実、阪神大震災直後の1995年度には、全国の銀行の業務純益は6兆7435億円となり、直近のピークを示している。もちろん経済成長など他の要因が大きいので一概にはいえないが、少なくとも大震災が銀行の業績を悪化させたデータはない。
実は、売りを浴びせた外国人投資家たちも、株価暴落のさなかに「日本経済は“買い”ではないか」と分析していたフシもある。
立花証券執行役員、平野憲一氏が明かす。
「株価が暴落した3月15日の取引を見ると、売り2に対して買い1が入っている。冷静に分析している投資家は、この下げは日本経済の現状を反映したものではないと見て、ここを絶好の買い時と判断していたことが推測される。
被災地域の被害はもちろん深刻ですが、もともと日本は生産能力に余剰があったので、被災地域外の生産活動を活性化させれば、日本全体の生産能力が著しく落ちるということはない。中長期的には復興需要も起きるから、日本経済は成長する可能性が高いでしょう。 まずは建設機械、橋梁、道路関連などに追い風が吹き、さらに陸運、海運など物流も業績を拡大する余地があります」
もちろん、どんな見方をしようとも災害は朗報にはならないが、だからといって「これで日本経済はもうダメだ」というのは、全く間違った見方なのである。
※週刊ポスト2011年4月1日