国内

農産物・水道水大混乱 原因は農水省と厚労省の内輪もめ

福島原発周辺産野菜や原乳は「出荷停止だが摂取制限はかからない」など矛盾をはらんでいるが、この混乱の原因は、この国家的危機のなかで、農水省と厚労省が内輪もめした結果である。

厚労省が所管する食品衛生法では、放射性物質に汚染された食品について、これまで摂取量の上限が決められていなかった。

3月16日の原子力災害対策本部の会議で、鹿野道彦・農水相がその問題を突き、細川律夫・厚労相に「農作物の風評被害を防ぐために早く基準値を定めるように」と求めた。すると、厚労省はその翌日、放射性ヨウ素の数値が飲料水や牛乳は1kgあたり300ベクレル、野菜類は2000ベクレルなどの「暫定規制値」を発表し、食品安全部長名で全国の自治体に「これを上回る食品については食用に供されることがないよう」と通達したのである。

農水省は「商売にならない」という農家の悲鳴に慌てて「基準をつくれ」と厚労省に責任を押し付け、厚労省は「被害が出れば、また叩かれる」と恐れて、わずか1日で基準をひねり出したという構図だ。

基準そのものは国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)の指針を元に、日本人の食生活を考慮して決められたものだから、「デタラメ」という批判は厳しすぎるが、こんな大事な場面で噴出した「縦割り行政」の弊害が二重規制を生み、それが混乱を助長したことは国家にとって痛恨の極みだ。

「厚労省は批判を恐れて一夜漬けで強い規制をつくったうえ、総理秘書官を通じて官邸に、一部の作物で基準を上回れば県全体の対象野菜を出荷停止や摂取禁止にできる原子力災害対策特措法の発動を求めた」(茨城県選出の民主党議員)

買い控えや買い占め、不安心理そのものが、直接的な人的被害につながることも忘れてはならない。

「そこで採れた作物も食べられないと聞けば、多くの人が“死の町”といった極端なイメージを抱く。現に福島県内では、避難地域にも屋内退避地域にも含まれていない場所まで、運送業者が配達を拒否したりして援助物資が届かない事態が起きている」(同県関係者)

そうした混乱が、避難所の犠牲者を増やすことがないよう祈るばかりだ。

※週刊ポスト2011年4月8日号

関連キーワード

トピックス

同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
入場するとすぐに大屋根リングが(時事通信フォト)
興味がない自分が「万博に行ってきた!」という話にどう反応するか
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン