福島原発の冷却作業には、東電の下請け企業の職員も参加している。冷却作業に参加した作業員によれば、地震直後の2~3日は徹夜での交代体制で、食事もビスケットとペットボトルの水など、ろくなものがなかったという。水が止まり、シャワーも浴びることができないなか、みなの口癖は「頭かゆいな」だった。厳しい状況下で、彼はなぜこんな危険な仕事を引き受けたのか。
「僕たちは下請けなので復旧作業がどう進められているか詳しくはわかりません。作業員は僕のように下請け会社で受けたり、個人で受けたり、様々な形で募集が広く行なわれています。
高額な報酬に心が動いたのは確かです。でも、今後の仕事のことや人間関係などを秤にかけて……特に人集めに必死だった社長の説得に押し切られて……でも、行ってすぐに後悔しました。正直、この件についてはもうこれ以上話したくないです。これは口止めされているからというだけではない。もしかしたら、将来身体にさしさわりがあるくらい被曝してしまったのではないかと不安で……」
東電が安全を考慮してくれているのはわかっているが――そう断わりながら、彼はつぶやいた。
なお、彼は報酬額について話すのを避けたが、関係者によると同種の作業には日給8万円で募集がかけられているという。原発作業員は、確かに自衛隊やハイパーレスキューのような強い使命感を持った人ばかりではないだろう。彼のように、様々な事情から嫌々作業に入り、現場から逃げ出したい恐怖心でいっぱいな人も多いはずだ。
それでも、彼らはやはり私たちができぬことを成し遂げた「英雄」である。現場に責任を押しつけるばかりで、指揮命令もままならない政府・企業に代わって、この決死の作業に携わる彼らを称えずして、日本の復興はない。
※週刊ポスト2011年4月8日号