原子力は現在、日本の電力供給の約4分の1を占めている。しかし、福島第一原発の事故を受け、その見直しは避けられない。原子力に替わる新たなエネルギーは何か。エネルギー問題に詳しい東大名誉教授の安井至氏の提言は興味深い。
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1000年に1回といわれる大災害とはいえ、現実に原発に事故が起きてしまった。住民の反発も考えられ、今後、福島の原発を使うことはできないだろう。原発そのものへの反発が高まり、別の場所での新規建設もまず不可能と思われる。
原発からの電力が途絶えたため、関東圏では鉄道の間引き運転や計画停電が実施されている。これから春に入れば電力需要は緩和し、計画停電は不要になるかもしれないが、問題はその後だ。原発なしでは夏場のピーク時の電力需要に対し、供給は絶対的に足りない。おそらく東京23区内の都心部まで計画停電の範囲が広がることになるだろう。
では、原発に替わるものがあるのかというと、結論からいって、現実的には極めて難しい。その中であえて可能性を指摘するならば、やはり「新エネルギー発電」の普及であろう。「新エネルギー発電」というと、風力や太陽光にばかり注目が集まる。だが、ヨーロッパやアメリカなどの大陸諸国とは違い、島国である日本は風向が安定せず、雨・雪も多いので、風力や太陽光発電には向かない。必要なときに発電できないかもしれない、あてにならない電源なのである。蓄電池に貯める方法もあるが、蓄電池自体が高価であるため、これも現実的ではない。
私が現時点で本命と考えるのは「地熱発電」。次いで、「中小水力発電」、「洋上風力発電」が挙げられる。地熱発電とは、火山活動による地熱で蒸気を発生させて発電する方法である。現在、日本には18か所の地熱発電所があり、合計で535メガワット(原発1基の半分ほど)の発電容量である。火山国である日本には、最も適している。
2つ目の中小水力とは、河川や農業用水などを利用して発電する方法だ。すでに日本のほとんどの大河川には大規模ダムが建設されているので、小さな河川で細かくエネルギーを拾っていくような形になる。現状では発電量としてカウントできるほどの量ではないが、候補地が非常に多いのでポテンシャル(潜在能力)は秘めている。
3つ目の洋上風力は、陸地ではなく海上での風力発電だ。陸上に比べ、風向・風力が安定しやすいので、“あてにできる電源”になる。
自然エネルギー発電が普及してこなかった背景には、コストの問題があった。地熱発電の場合、1キロワット当たりの発電コストは10数円程度。現在、産業用電力の売値が約10円/キロワットなので、電力会社からすれば6~7円/キロワット程度でないと買い取りに積極的になれなかったのだ。
また、地熱は、利用に適した場所の多くが国立公園内にあることが多く、これが建設の障害になっていた。中小水力や洋上風力は、水利権や漁業権という、法に規定されていない既得権に阻まれることが多かった。
しかし今は「非常時」だ。平時は動かせなかった強固な既得権も、輪番停電まで行なわれる「国の危機」という言葉の元に崩せる好機ともいえる。政府もこの機会をとらえ、電力買い取りを義務化するなどして、自然エネルギー発電の普及を推し進めるべきである。
※週刊ポスト2011年4月8日号