石巻市と隣接する宮城県涌谷町のラブホテル。ビジネスホテルより広めのそのバスルームでは、部屋の内装には似つかわしくない、子連れの家族の明るい声が響いている。
「お風呂、久しぶりだね~」「あったかくて気持ちいいね~」
普段、ラブホテルは男女2人で入る場所であり、風営法上、未成年は入ることができない。しかし、このラブホテルは違反を承知で、被災者の家族に部屋を提供している。
内陸部に位置し、沿岸部に比べて震災の被害は少なかったものの、ガスや水道が止まり、再開したのは3月25日。壁紙が剥がれたり、水道管やボイラーが壊れるなどの被害が出たため、復旧作業をしながらの営業だという。
「石巻市内のラブホテルの多くは海岸に近い場所に建っていて全滅状態。それもあって、『いつから再開するのか』と毎日、何十件も問い合わせがあった。営業再開に当たっては、社長が地元のFM局に頼んで、『ホテルは営業しています。お風呂にも入れます。家族での利用もできます』と流してもらったんです」(ホテルのスタッフ)
再開以来、ほとんど満室状態で、その多くが家族連れの利用だという。休憩が3990円で、宿泊が5770円。被災者向けに割り引きはしていないというが、「今は、何人でご利用されても追加料金は頂いておりません。宿泊は21時からですが、17時ころに来られて宿泊したいと希望された方には追加料金なしの宿泊料金で対応しています」
とのこと。部屋には2人用の大きめの布団1枚しか用意されていないため、「寒いので布団をもう1枚、貸してほしい」というリクエストも多いという。
近くにあるラブホテルも同様で、支配人は、「今は満室状態。ほとんどが家族連れの方で、休憩3時間で帰られますね」 と語った。
このホテルから家族連れで出てきた30代のご主人に話を聞くと、「家は流され、着の身着のままで避難して仕事もなくしたので、正直3500円の出費は痛い。でも、プライバシーのまったくない避難所生活に、特に子供が我慢できなくなってしまって『お父さん、なんでここにいないといけないの?』って聞いてきたんです。だから、今日は子供も大喜びでした。お風呂にもゆっくり浸かれて、家族だけでいられる3時間はとても大切なもの。お金には代えられません」と嬉しそうに語った。
死亡・行方不明者合わせて2000人近くを出した名取市でも、ラブホテルはどこも家族連れで満室だ。
「ラブホテルは海岸近くではなく、バイパスや高速沿いに林立しているので、被害は比較的少なかった」
とラブホテル関係者。実際に海岸から6キロメートルほど内陸にあるバイパスを車で走るとラブホテルが並んでいた。「入湯のみ30分500円人数制限無し 1時間2000円24時間受付可」「おフロ・シャワー営業中です!! 子供無料」等といった紙を貼っていた、あるラブホテルの支配人がいう。
「大震災で困っている人たちがたくさんいる。ウチでも何かできることはないかと、被災者の方にお風呂だけでも提供したいと考えました。1時間は2000円とちょっと高めに設定していますが、それは少しでも多くの方に入浴していただきたいからです」
商売無視だという支配人、被災者に喜んでもらえたことが嬉しかったという。
※週刊ポスト2011年4月22日号