原子炉内の劇的反応の可能性は、炉内の温度が下がるに従って減っていると考えてよい。従って、燃料棒が溶けて容器を破り、外部に漏れ出るような重大なメルトダウン(炉心溶融)も可能性は低くなった。炉内の発熱量は加速度的に減っていくので、全体状況としては安全度が少しずつ増しているといえる。
しかし、それ以外にも圧力容器や格納容器を破損させ、放射性物質を外部に漏れさせる危険因子はある。これまでの注水作業により、現在、格納容器には大量の水がある。窒素注入の際、「400立方メートルの窒素を入れたら、1.5気圧が1.7気圧に上がった」と発表された。
ここから計算すると、容器内には2000立方メートル程度の「気体部分」があると推測できる。格納容器の容積(1号機。圧力抑制室を除く)は約4000立方メートルなので、気体は約半分。つまり、水は2000立方メートル=2000メートルも入っていることになる。東芝で30年にわたって原子炉の設計や安全解析に従事した吉岡律夫氏はこう語る。
「このような状態は格納容器の設計では想定されていません。大きな余震があった際などに、水の重さで容器が破損する危険がないとはいえない。しかも1日150トンほどの注水を続けていますから、まだ容器内の水は増えていく。
この水は高い放射能を持つので、容器が割れて流れ出れば周辺を大規模に汚染します。早く水を抜くことが必要ですが、今はその水を移す場所がない」
また、2号機では圧力抑制室が破損していると見られており、他の原子炉でも、タービン建屋に大量の放射能を持つ水が溜まっていることから、配管などが破損している可能性が高い。このままでは、放射性物質が漏れ続けることになる。修復すればいいのだが、高濃度の放射線の中での作業が必要だ。原子炉工学が専門の九州大学特任教授・工藤和彦氏に聞いた。
「原子炉内の出力(温度)や圧力の推移を詳細に見ると、2号機、3号機の圧力容器から放射性物質が漏れる“抜け道”がある可能性が高い。ただしデータからは、ポッカリと穴が開いているわけではないことも読み取れます。
この抜け道が原子炉のメルトダウンなど重大な危機を招く危険は低いのですが、少しずつ放射性物質が漏れ、それが周辺を汚染する恐れはある。
修復するにも、現在の高い放射線量では、破損個所の調査に行くこともできません。破損の状態を確認できるまでに、まだ数か月を要するかもしれない。修復作業はその先になります」
残念ながら、その間は放射性物質が漏れる。周辺で観測される放射線量は減少が続いており、東京や仙台など福島県外の放射線量は、もともと自然界にある線量と差がない程度にまで下がっている。しかし、避難区域など原発近くの状況が改善するまでには、まだ時間がかかりそうだ。
※週刊ポスト2011年4月29日号