繰り返されるメッセージCMのなかでも、お母さん層を中心に好評なのが『あいさつの魔法』だ。
犬やウサギ、ワニ、ライオンなど、アニメのゆるキャラが歌に合わせて登場し、「こんにちワン!」「ありがとウサギ」などの言葉とともに、楽しい仲間が増えていくという内容である。
しかし、避難所生活を送る人には辛い歌だという。
「テレビであの歌が流れたらすぐに消す。あのCMを見ると、俺の目の前で津波に巻き込まれて行った家族の姿が蘇るんだ。こっちは周りの人間がどんどんいなくなったんだから」――40代男性はそういうと、目から涙があふれ出した。
首都圏の計画停電が中止になるなど、被災地以外の地域が日常を取り戻しつつある中、被災者とそうでない人たちとの意識が乖離しつつあるのかもしれない。
被災者たちは、そんな温度差を友人や親戚とのやりとりからも感じている。
「困りものなのが、遠方に住む友人からの“励ましにそっちに行こうか? 何か役に立てることない?”のメール。善意からだろうけど、社交辞令的で。避難所の生活は心細いし、いろいろ物資を持ってきてくれたら嬉しいけど、全然そんな風じゃない。第一、物見遊山で来てもらっても困る」(30代女性)
また、津波で夫と家を失い、宮城県石巻市の避難所で暮らす60代女性は、関西の親戚からの頻繁な電話に困惑していると話す。
「心配してくれるのはありがたいけど、“原発は大丈夫なのかしらね? 早く避難したほうがいい”と原発事故の話ばかりいって不安をあおる。通帳も全部流されてお金もないのに、どこに避難しろというのか。明日食べ物があるかどうかの心配をしているのに……娘もついに怒って“いい加減なことをいわないで。こっちは原発どころじゃないの!”と怒鳴っていました」
「1日も早い復興を」「東北再生」といった言葉に、戸惑いを感じている被災者もいるようだ。妻と子供を亡くした40代の男性は、自宅のあった場所から少しずつ範囲を広げ、いまだ家族を探す毎日を送っている。
「家族の遺体すら見つかっていない状況で“復興”なんていわれても……。なんとか遺体だけは見つけてあげたい。先のことは、すべてその後だと思っている」
この男性は、テレビで「前を向こう」というメッセージを耳にするたびに、自分とは遠い言葉だと感じてしまうという。なにしろいま彼が目にしているのは、家族がそのどこかに埋もれているであろう一面の瓦礫と、その瓦礫を轟音を立てながら押し退けていくブルドーザーなのだ。
※週刊ポスト2011年4月29日号