全国各地で広がる被災者支援の輪。しかし、人々の善意を逆手にとって懐を暖めようとする輩は後を絶たない。
東京都では、福島、宮城、岩手からの避難者を受け入れるべく、板橋区や立川市など都内27か所で、計600戸の都営住宅の空室を用意した。今月1日には入居説明会と抽選会が行なわれたのだが、立ち会った都職員は、「どうしても被災者とは思えない人物が紛れ込んでいた」と首を傾げる。
「応募者には住民票や身分証の提示を求め、それがない人には、病院の診察券、レンタルビデオ屋の会員証、公共料金の請求書など、何でもいいので名前の書かれているものを用意してもらうようにしています。しかし、なかには“被災地から来た”の一点張りで、入居しようとする人がいるんです」(都職員)
もちろん、震災で着のみ着のまま逃れてきた人もいるわけで、すべてを疑うわけにはいかない。しかし、その“被災者”は、不審なことだらけだったという。
「受付係は、手元にあるパソコンで被災地の地域情報を検索しながら、“●●町のどのあたりに住んでいたのですか?”“隣にあるお店の名前は?”など、本当に住んでいなければ答えられない質問をぶつけたんです。すると、その入居希望者はうろたえ始め、それ以上は何もいわずに帰っていきました。同様のケースは何件もあったようです」(都職員)
用意された都営住宅は最長6か月入居可能で、家賃は無料。しかも照明、ガスコンロ、冷蔵庫、テレビ、布団の“5点セット”が完備されている。複数世帯の相部屋でなく、1部屋1世帯が入居できるというのも大きな魅力だ。おそらく“なりすまし被災者”は、この恵まれた住環境を求めてきたのだろう。
これ以外にも“なりすまし”は後を絶たない。被災者向けに各銀行が特例の預金払い戻しを行なっているが、これに乗じた“なりすまし詐欺”も発生しているようだ。
各銀行は、地震や津波で通帳やキャッシュカードを失った人に対し、運転免許証など身元が確認できるものがあれば10万円程度の限度額を設けて払い戻しに応じている。
銀行関係者がいう。「運転免許証などもなくしてしまった方が多いため、厳密な身元確認ができない場合でも、応じているケースがある。そのため、払い戻しを受けた人の中には、被災者を偽っている人もいると思われます」
※週刊ポスト2011年4月29日号