地震から1か月。避難所の寒さや衛生状態の悪さから慢性疾患を悪化させて亡くなる「震災関連死」も後を絶たないという。その数、岩手・宮城・福島の3県で約300名に及ぶ。多くが避難所で生活する高齢者だ。テレビ・新聞が報じない“救済なき避難所生活”にジャーナリストの小川善照氏が迫った。同氏が訪問したのは宮城県石巻市中心部から車で20分の場所にある避難所だ。
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お年寄りに話を聞くと、余震が頻発するという「現実」に怯える日々はまだまだ続くが、「今後」を意識した不安も頭をもたげるようになってきたという。
69歳女性は言う。
「千葉の介護老人施設に2か月はまったく無料で入れて、そのあとはアパートに入居できるという話をきいたんだが。どうも信用できねぇ。詐欺が流行っているっていうしよぉ。だってそれを募集している人間は『年金はいくらもらってますか』なんて聞くんだ。オラの年金まで取り上げるつもりか?」
周囲のスタッフに話を聞くと、この老婆に話を持っていったのはソーシャルワーカーだという。彼らとしても、対象者の収入状況は把握しておかなければならず、不審な調査ではない。
だが、避難所にも伝わる「震災詐欺」の報道に際して、警戒心を高めている。
心労は周囲にも伝播する。被災地を巡回している医師は疲れ果てた様子で言う。「福祉避難所の状況はマスコミが報じる以上に酷い。このままだと、震災関連死はまだ増えるでしょう」
先週、この医師は福祉避難所の当直をしていた。すると、ある70過ぎの男性が苦しい、と呻きだした。しばらくすると呼吸停止の症状を見せ始めた。この医師はすぐに救急車の手配をした。しかし――。
「到着は30分後、その男性は泣き崩れる老妻の脇で口から血を流しながら息を引き取った。男性は透析患者だったらしく、避難所で体調を崩してしまった。なんともやるせない。
県や自治体の措置もおかしいと思う。緊急時に救急病院まで時間がかかる、山間の施設が高齢者たちの福祉避難所というのはなんとかならんでしょうか」
●取材・文/小川善照(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2011年4月29日号