予算の組み替え、仕分けでこれまで徐々に利権を削られてきたイメージのある霞が関だが、ここぞとばかりに「震災復興」を大義名分として、利権復活、省益拡大へ邁進している。ジャーナリストの武冨薫氏がレポートする。
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巨大な震災復興事業が始まるとなると、霞が関全体が「省益拡大のチャンス」と目の色を変えている。
真っ先に動いたのが国土交通省だ。高速道路の「土日1000円乗り放題」や「平日2000円」の割引制度や無料化実験を見直し、被災地での道路復旧財源に回す方針を打ち出した。
「震災復興のためなら仕方がない」と思うかもしれないが、実は、津波でズタズタになったのはほとんどが自治体が建設した地方道で、高速道路と国道は、原発事故で作業ができない福島県の一部を除いて復旧している。
民主党国土交通部門会議の議員がこう語る。
「高速料金割引の財源はまだ2兆円残っている。国交省はガソリン税の道路特定財源が“無駄な道路の原資”と批判されて一般財源化されて建設利権が縮小したため、この料金割引財源を昔のように道路建設に回したい。他の地方では新たな国道のニーズは減っているが、被災地なら大義名分があるから国交省直轄の復興道路をどんどん建設できると考えている」
このタイプの利権復活は、民主党政権になって農業土木予算を大幅に減らされた農水省も狙っている。
震災の被害が大きかった東北3県では2万haの農地が津波で海水につかり、瓦礫に埋もれている。農地の復旧には大規模な土地改良事業が必要で、同省は農業用ダムや排水施設の復旧、国が一時的に農地を買い上げて全額国費で土地改良事業を行なうなどの特別立法を検討している。こちらも「復興」を隠れ蓑にして、かつての利権を取り戻すために直轄建設事業を握ろうというものだ。
また、厚生労働省は転職者用の雇用促進住宅(全国に約14万戸)に約4万戸の空室があることから、被災者を受け入れる方針だ。同住宅はサラリーマンが払う雇用保険料で建設されたが、「役所が住宅事業をやる必要がない」と廃止・売却方針が決まっていた。それを震災をテコに生き延びさせようというのだ。それならば被災した自治体に住宅の所有権ごと渡せばいいが、手放す気はなさそうだ。
予算の復活や大規模な公共事業は被災地再生のためには欠かせない。だが、それが「復興のため」ではなく、「利権復活」に軸足が置かれれば、同じ公共事業でも、予算ばかり肥大化して無駄な事業が増えるという“いつか来た道”につながる。
※SAPIO2011年5月4日・11日号