福島原発事故を「チェルノブイリ級」と必要以上に騒ぐのは、「煽り」でありヒステリーだ。もっと冷静な分析が必要である。
原子力安全委員会の推定では、今回の事故で原子炉から放出された放射性物質は「63万テラベクレル」、保安院は「37万テラベクレル」としている。チェルノブイリは「520万テラベクレル」なので、その約1割だが、国際原子力事象評価尺度(INES)に基づく事故レベルでは、「数万テラベクレル以上」はすべて「レベル7」なので、この基準に従えば評価は正しい。
ただし、単純に汚染がチェルノブイリの1割と考えるのは間違いだ。なぜなら、チェルノブイリは原子炉そのものが大爆発で四散してしまったので、その「520万テラベクレル」はそっくりそのまま環境に放出されたが、福島は違う。
「今回の推定では、原子炉の外に出た物はすべてカウントされているが、漏れた物質の多くは汚染水として原発内に留まっている。周辺環境に出た放射能はさらに一桁は少ないのではないか」(原子炉技術者)
タービン建屋などに溜まった汚染水は、すさまじい放射能を帯びる。東京電力は3月28日時点で、この水の放射能レベルを「1立方センチあたり1900万ベクレル」と発表した。
汚染水はおよそ6万トン、すなわち6万立方メートルある。もしすべて同じ濃度なら、汚染水全体では、
19,000,000ベクレル×60,000,000,000立方センチ=1,140,000,000,000,000,000ベクレル
になる。桁を直すと「114万テラベクレル」で、放出総量を超えてしまう。このことから、平均の放射線量はもっと低いと思われる。推計は難しいものの、「63万テラベクレル」のかなりの部分が、今も水の中にあると考えられるのだ。
また、漏れた物質にはヨウ素やテルルなど半減期(放射能が半分になる時間)の短い物質が多く、放射能はすでに事故当初より一桁か二桁は小さくなっている。
もちろん、セシウム137(半減期30年)なども大量に漏れたので今後も周辺では対策が必要だが、チェルノブイリのように、「ありとあらゆる核物質が飛び散った」わけでもない。
「チェルノブイリ級」の言葉は誤解の元だ。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号