福島第一原発の廃炉作業で、最大の難関で最も重要なのが圧力容器から燃料を取り出す作業で、これは十分に炉内が冷えないと無理なので、早くても4~5年後になる、と原子力安全工学が専門の近畿大学原子力研究所の伊藤哲夫・所長は指摘する。
その「最難関」に至る準備作業も容易ではない。
燃料棒を取り出すといっても、まず壊れた建屋を撤去し、使用済み燃料プールの燃料を運び出し、そして燃料棒を取り出すためのクレーン(事故で各号機とも破損してしまった)を再建しなければならない。
伊藤所長はこう語る。
「壊れた建屋も高い放射能を帯びている。解体作業で粉塵や埃が舞い上がれば、また周辺を汚染する恐れがある。ドーム状の特殊な膜などで覆って作業することになるが、結局は人海戦術になり、作業員の被曝が心配です。難しければ『石棺』も選択肢になる」
どのみち、バラバラに壊れた燃料や汚染された建材は引き取り手がなく、福島第一原発内で保管しなければならない。ならば「石棺」でも同じなのである。
東芝で原子炉設計に携わった日本システム安全研究所の吉岡律夫・代表はいう。
「廃炉作業に入るにも、『系統除染』といって化学薬品などで放射性物質を除去する困難な作業があります。それから『待つ』。そして『解体』に入るわけで、私は解体は早くても10年先と見ています。燃料だけはどうしても取り出す必要がありますが、燃料搬出から先の作業は、これから検討する未知の領域です」
もっと喫緊の課題もある。2号機では格納容器に穴が開いており、1~3号機とも炉心から水漏れしている可能性が高い。が、「放射線量が落ちるまで修復作業にかかれない。1年後かもしれない」(福島第一原発関係者)という状態で、その間も少しずつ放射性物質は漏れ続けるし、重大事故が起きないとも限らない。
綱渡りの状態では、住民の帰宅は難しい。政府が「6~9か月後に帰宅の目途を明らかにする」と気の長い話をするのはそのためだ。
しかし、まさか半年も避難生活をさせたうえで、「帰宅は5年後」という発表は許されない。責任をもって住民の長期移転を進める決断も必要ではないか。
※週刊ポスト2011年5月6日・13日号