中国の軍事力において、最大の謎にして最大の脅威とされるのが「核戦力」だ。中国は核保有国のなかで、唯一核ミサイルの保有数を公表しておらず、それが世界の核バランスの不確定要素にもなっている。アメリカがかつてソ連としのぎを削った核軍拡競争。今、その脅威の対象は明らかに中国に向かっている。産経新聞ワシントン駐在編集特別委員の古森義久氏が驚嘆した、アメリカの最新研究の実態をレポートする。
* * *
私はマーク・ストークス氏が昨年春に発表した、中国の核弾頭管理についての調査報告に驚嘆していた。
※マーク・ストークス氏はアジア太平洋の安全保障問題を研究する「プロジェクト2049研究所」の専務理事である。米空軍に20年間勤め、中国の軍事研究を専門とし、国防総省の中国部長をも歴任した。中国の核戦力についての著作や報告も多い。ベテラン研究者である。
中国軍の核戦力態勢にここまで具体的に光を当てた報告はそれまで読んだことがなかったからだ。もちろんアメリカの政府や軍の当局が得た情報を基礎にしているにせよ、興奮し、緊張させられる内容だった。
▽中国は合計約450発(うち戦略核用が約250発)と推定される核弾頭の大部分を、平時は中央部の秦嶺山脈の太白山を中心とする広大な地下基地に保管している。この基地は「22基地」と呼ばれ、共産党中央軍事委員会(胡錦濤国家主席)の直接の指揮下にある。人民解放軍では戦略核ミサイルは「第2砲兵部隊」の管轄だが、同部隊も「22基地」の指令に従う。同基地の中枢は陝西省太白県に所在する。
▽中国軍のミサイル発射基地は瀋陽、洛陽、黄山、西寧、懐化、昆明の6か所にあり、平時から各基地にごく少数の核弾頭をおいている。だが普段でも「22基地」から同基地を囲む形に位置する先の6つの基地へ、追加の弾頭を一般の鉄道や高速道路で頻繁に移動させている。中国は戦時でも核兵器を先には使わないという「核先制不使用」の方針を打ち出しているため、核攻撃を受けてもなお報復できる核戦力を保持するには、防御の弱いミサイル発射基地の核弾頭保管を最小限としている。
▽「22基地」自体も攻撃回避のため保管弾頭を夜間、鉄道や高速道路を走らせることが多く、交通路の破綻からの危機が生じうる。2008年5月の四川大地震では「22基地」弾頭移動駅近くの鉄道トンネルで列車が脱線し、危険物質が露出された可能性が高い。
と、こんな実態の報告だった。
※SAPIO2011年5月4・11日号