3月11日から2か月。お茶の水女子大学名誉教授の藤原正彦氏とジャーナリストの櫻井よしこ氏が国家再生に欠かせない日本人の「覚悟」と「誇り」を論じ合った。
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櫻井:この大災害を、日本国が戦後、豊かさの代償として忘れてきたものを思い出し、日本再生のチャンスにしなければならないと思っている人は多いと思います。そうしなければ亡くなった方々に申し訳ないと感じますし、今日本人が見せている素晴らしい心も生かされなくなってしまう。
藤原:日本にいる限り、大地震や大噴火、津波、台風などの災害があるのは仕方がありません。この苛酷な自然のなかから、やさしさとか惻隠、もののあはれといった日本人の情緒が生まれてきました。重要なのは、大災害の後どう立ち直るか。いかに二次、三次の被害を食い止めるかです。
櫻井:まったく同感です。原発事故は二次被害ですが、政府はそのコントロールに四苦八苦して、第三次被害を食い止めるべき復興の対策は何も打てていない。その原因はこの国のリーダーシップが確立されていない、危機管理ができていないということにあります。国家がなきに等しき状況です。
藤原:真のエリートの最も重要な要件を全部満たしていませんね。歴史や思想、文学、芸術などに根ざした大局観、長期的視野がまったく見られない。いざとなれば自らの命を国家国民に捧げるという気概もない。
櫻井:菅首相は原発事故の後、官房長官も統合幕僚長も連れずに自分ひとりで現地視察に行き、自分の横顔をカメラに撮らせましたが、自分が目立つことしか考えていないかのようです。また、菅首相はこの一か月半の間に、23もの会議をつくりました。責任が分散され、誰が本当の責任者かわからない中、混乱ばかり拡大されている。
藤原:こうした危機に際しては、中央集権でトップがすべてを決めるべきです。その代わり失敗したらただちに腹を切る。そのぐらいの覚悟でないと。今はとにかく全力を挙げて原発を安定させ、そして東北を一気に復興すべきです。私は増税は賛成できませんが、国債の発行や埋蔵金の活用など、どんな手段を使ってでも、とにかく一気にやるべきです。そして今度こそ日本が10数年来苦しんでいるデフレ不況から一気に脱却する。それによって税収を増やし、どんどん東北の復興につぎこむ。こういう政策が必要だと思います。
※週刊ポスト2011年5月20日号