4月22日の朝日新聞に、夢のような見出しが躍った。
〈風力なら原発40基分の発電可能 環境省試算〉
記事によれば、日本全体で風力発電を導入すると、約2400万~1億4000万kWの出力になり、稼働率を24%としても、原発7~40基分に相当するというのである。検証してみよう。
日本で発電可能な風が吹く時間は年間約2000時間とされるから、「稼働率24%」は妥当といえる。
日本で導入されている大規模風力発電で使われる2000kWクラスの風車で考えるならば、原発1基(100万kW)を代替するには、およそ1770基が必要になる(原発の稼働率を実績から85%と仮定し、風力の稼働率を24%と仮定)。
互いに干渉しないためには風車を最低でも100mずつ離す必要があるから、直線に並べれば177kmになる。ざっと東京~いわき間の距離だ。
40基分となると、この40倍だから7000km以上。北海道の稚内から鹿児島の指宿を結ぶJR線の距離が約3000kmなので、風車が列島を南北に1往復する計算になる。これが現実的でないことは、もはや言葉を要しない。
“大朝日”が、なぜこんな大間違いを書いたのか。記事は環境省試算を根拠にしているが、その同省が所掌する「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ検討会」の委員である安井至・東京大学名誉教授はこう苦笑する。
「委員で風力だけが代替エネルギーとして有力だという人は一人もいません。朝日の記事にある試算とは、可能な場所をすべて風力発電で利用し尽くした場合の『ポテンシャル』の数字であり、現実的なものではありません。
ポテンシャルについては風力だけでなく地熱、水力、太陽光なども発表していますが、朝日はその一部の数字から独自の計算をして『原発40基分』などと書いたのでしょう。昔から反原発派の人々は『風力推進派』が多く、そうした思想が背景にあるのかもしれません」
風力発電は、ヨーロッパなどでは大規模な導入実績や計画があるが、日本には当てはまらないという。
安井名誉教授が続ける。
「大陸の西端にあるヨーロッパでは、一定して西風(偏西風)が吹きますが、東端の日本は風向も風力も安定しません。また、ヨーロッパの海は遠浅で洋上風車が建設しやすいが、日本はその点で不利なうえ、台風や落雷が多く、実際に被害も起きています。
日本は風況の良い場所が少ないうえ、僻地になってしまう。北海道の稚内は有力地ですが、そこで発電して、どうやって東京まで電気を持ってくるかは難題なのです」
日本の「風況」が安定しないことはよく知られており、最も適した北海道でも、2009年の例で、利用率データのある38の風力発電所のうち、計画された発電量を5%以上上回ったのは1か所。逆に5%以上下回るものが21か所あり、平均で26.3%の稼働率だった(「北海道における風力発電の現状と課題」北海道産業保安監督部=2010年)。
これが「国内最適地」に開発された風力発電所の実績であり、この面でも朝日の机上の空論は明らかだ。
※週刊ポスト2011年5月20日号