現代生活にストレスはつきもの。社会の仕組みが複雑化、変化の速度は速く、価値観の多様化の中で心身の疲労や不安を訴える人が増えている。「春は入学や就職など環境の変化が多く、不調を訴える人が増える季節。今年は震災の影響もあり、受診する人、メンタル相談を求める人が多いようです」と、横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長の精神科医・山本晴義さん。
それに符号するかのように、『正しく知る不安障害』(技術評論社)の著者で、対人関係療法専門クリニック院長の精神科医・水島広子さんは少し前に都内で次のような女性2人の会話を耳にしたという。
「最近すごく疲れやすいんだけど、これって放射能の影響かな」「年のせいよ、年!」「そんなことない。周りの若い人もみんな調子が悪くなってるから、絶対放射能のせい!」
「放射能のせいといった彼女には、不安症状が表れています。心配し続けた疲れが体調不良になっていると考えられますが、心配なのは、ふたりの価値観の格差」(水島さん)
一方は放射能は全然気にならないと考え、もう一方は不安が非常に強い。このふたりが折り合うことはなく、疲れを訴えた彼女は、全然納得していなかったという。最初は微細なことでも、こうした価値観の格差が不安を増大し、対人関係を悪化させる原因になりかねないという。
何事にも個人差はある。これまでだって水や食にこだわり、添加物は絶対口にしないという人もいたはずだ。だが認めていたはずの価値観の差を、震災をきっかけに溝のように感じる人もいるのだ。
「気にしすぎ」「気にしなさすぎ」を受け入れられず、相手への攻撃に発展することもある。多様性を尊重し、自分はこれでいいと思うことができれば、心は少しラクになるのでは、と水島さんはいう。
そもそも、現代社会で生活している以上、ストレスゼロはあり得ない。精神や体の不調、行動となって表れるのはある意味自然なこと。
「精神的な疲れは、憂うつやイライラなどといった心だけでなく、体の症状に顕在化することが多い」と前出・山本さん。気持ちに不安や焦りがあると忙しく動いたり、落ち着いて行動できなくなったり、体のひずみとなって体調不良を起こすこともある。ただ、体の症状はその人の弱いところに出やすいため、人によって症状の出方は異なるので注意が必要。心が発する危険信号に早めに気づき、自分でコントロールすることが、うつ病などを防ぐことになるのだ。
※女性セブン2011年6月2日号