5月15日になって東京電力は福島第一原発の1号機でメルトダウンが起きていたと発表、国民の多くがまた不安を感じた。しかし、こうした「メルトダウン騒ぎ」は、政府と東京電力の隠蔽体質が招いた人災だ。
本誌は震災直後の4月1日号で、事故翌日に「炉心の燃料が溶けている」と述べてメルトダウンを認めた原子力安全・保安院の中村幸一郎・審議官が“更迭”されたことを報じた。
国会でもこの不自然な担当交代が追及されたが、こんな露骨な情報隠蔽をするから、今になってメルトダウンを認め、再び国民を不安に陥れる愚を重ねることになった。
情報隠蔽でいえば、本誌は4月29日号(4月18日発売)で、資源エネルギー庁が作成した極秘資料をスクープし、「原発をすべて止めても、揚水発電や火力発電をフル稼働させれば夏の停電は避けられる」という重大事実を明らかにした。
政府・東電は姑息にも、本誌発売に合わせて「計画停電目標」を引き下げてごまかそうとした。5月に入って東京新聞が後追い記事を載せて追及したが、大新聞は今もダンマリだ。
放射能拡散予測データ(SPEEDI試算)を隠していたことを暴いたのは、翌週の5月6・13日号(4月25日発売)。震災直後には官邸が飯舘村などの大量被曝を予測できていたのに、データを隠して住民を被曝させたという重大問題だ。これも政府は本誌報道後に慌ててデータを公表した。
こういう態度が、“危機ではない発表”まで騒ぎにしてしまう。九州大学特任教授・工藤和彦氏(原子炉工学)の指摘は厳しい。
「メルトダウンの事実など今さら事態に何ら変化を及ぼすわけではありません。燃料がどれほど溶融していたかに大きな意味はない。
意味のない発表に注目が集まる一方で、大事な問題で嘘が放置されているほうが問題です。例えば、私には実現困難とも映る政府の工程表などはもっと真剣に検証すべきです」
実は福島第一原発の現状についても、政府・東電は「本当の危機」をまだ明らかにしていない。本誌はエネ庁資料を報じた同じ号で、同原発の「最悪シナリオ」として、格納容器にずっと大量の水が入っている状態は問題だと指摘し、原子炉専門家のこんなコメントを掲載した。
「格納容器の設計では想定されていません。大きな余震があった際などに、水の重さで容器が破損する危険がないとはいえない」
その後、東電は1号機で格納容器全体を水で満たして炉心を冷やす「水棺(冠水)」を進めた。
しかし、いくら水を入れても炉心は水没せず、5月15日になって細野豪志・首相補佐官が、「水が漏れている。別の方法を考える」と、計画断念を表明した。これは本誌が懸念した悪い事態が起きていることを示している。
※週刊ポスト2011年6月3日号