『大津波 ババのへそくり 泥のなか』
『水汲みと 物資もらいで 今日も暮れ』
『災害が 冷えた夫婦の よりもどす』
『家借りて 整理する日が おそろしい』
『流された 家より惜しい 味噌のタル』
震災による大津波で壊滅的な被害を受けた宮城県南三陸町。何一つなくなった町を見下ろす志津川の高台にある旭ヶ丘地区では、区長が川柳を読み上げるたびに、住民から大きな笑いと拍手が沸き起こる。それを照れたように頭をかきながら顔を赤らめる詠み人。
いずれも目の前に厳然とある悲惨な現実を詠みながらも、どこかそれを前向きに笑うユーモアが感じられる。これらの川柳を詠んだのは、この地区の住民たち。
同地区では「震災になんか負けないぞ」とばかりに、4月10日以来、週に1回程度、水や支援物資などの配給場所となっている地区の集会場の前で、川柳大会を行なっているのだ。
発起人でもある区長の柴田正廣さん(62)は、川柳大会を始めた理由をこう説明する。
「ご存じのように、南三陸町は壊滅状態です。だからといって、凄惨な体験を引きずっていても仕方ありません。いっそのこと川柳を作り、この苦境を笑い飛ばしてみてはどうかと思って提案したんです」
新興住宅地ゆえ、震災を機に顔見知りになった住民も多かった。そんなぎこちない雰囲気も川柳がきっかけで和らいだという。
※週刊ポスト2011年6月3日号