アメリカでここ数年、それに呼応するかのように結婚の新たなトレンドが出現している。「ポリアモリー」だ。2006年にオックスフォード英語大辞典に新たに加わった「ポリアモリー」とは、夫婦やカップルがそれぞれの了承で特定のパートナーを1人に限定しない関係のことを指す。決してフリーセックスや浮気が目的ではなく、複数の相手と同時に親密な恋愛関係を築く形態をいう。
テキサス州に暮らすクリストファー・ジェイコブス(46)と妻ジェニー(40)は、出産以降、セックスレスになった。ジェニーは性的に満たされず、バイセクシャルということもあり、結果的に女性と性的関係をもつ。
だが裏切りを悔やんだ彼女は、たまらず夫に浮気を打ち明けた。そして愛し合う2人が12歳になる娘とこれからも一緒にいるために、夫婦の生活にもう1人女性を参加させてはどうかと提案した。「他の女を抱きたいと思うことはない?」と聞くと、最初は否定していたクリストファーも「ある」と認めた。
結婚カウンセリングの専門誌によれば、アメリカ人既婚男性の60%、既婚女性の50%が不倫を経験している。進化生物学者や心理学者の中には、2人以上に恋愛感情を抱くのは人間として自然だと主張する者も少なくない。ジェニーはいう。
「結婚とは一生涯、不貞を隠して性的な忠誠を守り続けること、つまり心の平安を守るために相手を『所有』することなのか。私の場合、性的に所有し合うことはうまくいかなかった」
現在、2人は31歳のジェマという女性を加え、それぞれが肉体関係と恋愛感情をもちながら幸せな夫婦生活を送っている。
今アメリカで彼らのようにポリアモリーを実践している人は50万人を超えるという。ポリアモリーに特化したオンラインマガジンには1万5000人の定期読者がおり、様々なメディアで取り上げられるようになっている。インターネット上で恋人を募集する夫婦も少なくない。
例えば、テリサ・グリーンナン(43)は、夫ラリー(53)と彼氏のスコット(53)と一緒にワシントン州の一軒家で暮らす。彼らはポリアモリーな関係だ。テリサには、フェイスブックで知り合ったマット(41)という別の彼氏がいる。既婚者のマットは妻のベラ(43)とともに、毎週末をテリサの家で過ごす。ちなみにベラはラリーとも恋愛関係にある。複雑すぎる関係だが、テリサは当たり前のようにこう語る。
「この関係にセックスは重要じゃない。自分の人生に2人以上の恋愛相手がほしいと思ったから、このライフスタイルを実践しているの。複数の相手との恋愛は世界で何世紀も行なわれてきたし、やっと多くが公に発言するようになったのよ」
ポリアモリーが結婚の形を変えるかどうかはわからない。だが間違いないのは、伝統的な結婚に窮屈さを感じている人が増えていること。注目すべきは離婚率や結婚率の低下ではないと、ジョンズ・ホプキンス大学の著名な社会学者アンドリュー・チャーリン教授は言う。
「問題はなぜいまだに大勢の人が結婚をするのかだ」
一夫多妻もポリアモリーも、結婚のあり方を考え直すのにはいい題材なのかもしれない。
※週刊ポスト2011年6月3日号