オサマ・ビンラディン容疑者殺害を受け、国際テロ組織、アルカイダは復讐を宣言した。各国で警戒レベルが引き上げられる中、軍事アナリストの小川和久氏は、「福島第一原発がテロ攻撃の標的として狙われる“必然性”がある」と強く警鐘を鳴らす。
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ビンラディンが殺害され、報復テロの危険が高まっている。日本を含む米国の同盟国はアルカイダのターゲットとなり得る。どこが狙われるのか? 常に、「敵の立場で考える」のが軍事や危機管理の基本だが、答えは自ずと見えている。福島第一原発こそ、テロリストが狙う標的リストの最上位に位置しているのだ。
理由は明らかだ。アルカイダは「費用対効果」を最優先に考えるからだ。彼らは、実行犯が命を賭ける自爆攻撃の効果が最大になる標的と方法を選ぶのである。
東日本大震災でダメージを受けたことにより、福島第一原発は世界中で最も攻撃が容易で、「費用対効果」がずば抜けてよいターゲットとなってしまった。
震災後、事故が大きく報じられたことで福島第一原発には世界の目が注がれてきた。テロ攻撃でそこから放射性物質を拡散させれば、放射線量はともかく、発生する地球規模の汚染によって大パニックを引き起こすことができるということは、誰の目にも一目瞭然だ。
それだけではない。「フクシマ」が狙われる理由は、そこら中に転がっている。
震災直後から、発電所敷地内の建物配置や原子炉建屋の内部構造が、映像、航空写真、図解などで大量に報道されてきた。テロリストにとってこれほど「おいしい話」はない。
テロ計画を立てるのに必要な重要情報がここまで公開されている原発が他にあるだろうか? 本来、こうした情報を手に入れるだけでも、アルカイダには膨大な時間や手間が必要だったはずだ。通常、原発の上空には飛行制限があり、地上での撮影にも制約がある。
また、普通の状態の原子炉は戦闘機を衝突させた実験にも耐えたほど頑丈で、破壊しにくい。
しかし、福島第一は水素爆発によって1、3、4号機の建屋が吹き飛んでいる。2号機の格納容器損傷は確実視され、東京電力がメルトダウンを認めた1号機にも深刻なダメージがあるとされる。
こうした状況を考えれば、数㎏のプラスチック爆薬でも、原子炉や格納容器にダメージを与えることは可能だろう。
しかも、発電所の周辺住民は既に避難している。人目が少なく、周囲の警備も手薄で、ターゲットの原子炉に近づきやすい。普通なら、原発のような重要施設を狙うには、高度6000mからスカイダイブして地表から600mでパラシュートを開くHALO(高高度降下低高度開傘)でも行なわなければ、接近は難しい。
しかし、今ならHALOで落下傘降下しなくても、例えば復旧作業員に紛れて侵入することだって考えられる。
それに、日本の警察や自衛隊がテロに備えようにも、不利な状況は否めない。原発を守る側は、原子炉から漏れ出す放射性物質による被曝を気にしなければならないからだ。 一方のテロリスト側は自爆テロを繰り返してきた連中だ。被曝を気にするわけがない。敵の立場で考えれば、これも自明のことだ。
繰り返す。世界中に原発はたくさんあれど、ここまで述べたような「ターゲットの条件」を満たしている原発は、福島第一しかないのである。
※SAPIO2011年6月15日号