国内

現役改革派官僚指摘「原発補償あっても東電の値上げ不必要」

東京電力の次期社長就任が内定した西沢俊夫・常務は、5月20日に経営合理化策を発表した際に、「最大限の努力を引き出した」としたうえで、電気料金値上げは「現時点では考えていない」と明言した。

東電は本当に「最大限の努力」をしたのか。現役の経済産業省キャリアで、改革派官僚として知られる古賀茂明氏(大臣官房付)は、「リストラ策には肝心な部分が抜けている」という。東電は「調達の基本方針」として、「適正かつ低価格の追求」を掲げているが、古賀氏は次のように語る。

「東電では営業所などで使うデスクやオフィス機器、文房具、制服などを定価に近い額で購入している可能性が高い。連結で5万3000人の社員を抱える東電が相手なら非常に旨味のある取引ですが、経産省が電気料金の認可時に、納入価格を厳しくチェックしているという話は聞かない。こうした経費はいくらでも絞れるはずです」

以下は、空きビルへの通電を電力会社に依頼した企業経営者の体験談だ。

「配線工事の見積もりが必要だといわれたので、知人の電気屋に格安で作成してもらったところ、電力会社から『当社の指定する業者でないと通電できない』といわれた。取引会社を潤わせるためのやり方なのでしょうが、工事費用は安いほど喜ぶのが普通ではないのでしょうか」

経営者が抗議した末に電力会社は渋々と通電を受け入れたというが、「より高い価格で納入させる」という“不思議な経営”がにじみ出た話だ。

民間企業調査会社の調べによると、東電を取引先とする企業は5000社以上。東芝や日立製作所など発電所の設計・建設関係の大企業が名を連ねる一方、年間売上高10億円以下で、東電を主要取引先とする企業が約7割を占める。その中には害虫駆除会社やスポーツ用品店、ワイナリーまであり、東電OBが経営する企業も目立つ。福島の楢葉町や双葉町、新潟の柏崎市など、発電所や変電所建設の地元対策として取引する企業が多いのも特徴だ。

OA機器販売会社や造園会社など、複数の納入企業に聞いたところ、一様に「販売価格は答えられない」と口を揃え、東電は「取引先の登録は、『調達の基本方針』などに照らして精査します。契約に際しても、当社の査定より高い場合は値下げ交渉をしている。適正な価格で調達していると思います」(総務部広報グループ)と説明した。

日本人はOECD30か国中8番目(日本より高いドイツ、フランスなどは料金の中に環境税などが含まれている)という高額な電気料金を押しつけられてきた。古賀氏はこう語る。

「民間企業はいかにして原材料費や設備建設のコストを安く抑えるかに腐心しているのに、東電をはじめとする電力会社はその真逆のやり方を60年間も続けてきた。燃料輸入国という弱点はあるが、高コスト体質に徹底的にメスを入れて発送電の分離をすれば、コストは大幅に下げられる」

発送電分離の米国の料金は日本の約40%。日本と同じく燃料を輸入に依存する韓国は発送電を分離していないのに料金は日本の33%だ。古賀氏が唱える事業リストラを行なえば、電気料金を現在の半額近くまで引き下げることは十分に可能だろう。古賀氏が続ける。

「原発事故の補償費用があるにしても、値上げなど全く必要ないのです。世論調査では、電気料金の値上げは仕方ないと答える割合が多いですが、騙されてはなりません」

※週刊ポスト2011年6月10日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト