原発事故処理の過程で発生した大量の汚染水の処理を請け負う予定と多数報じられたのは、日本企業ではなくフランスの原子力大手「アレバ」だったが、実は汚染水処理に関わっている外国企業はアレバ社だけではない。
米国の原子力大手キュリオン社も汚染水にゼオライト(吸着材の一種)を投入して、放射性セシウムを吸い取る工程を請け負っている(アレバ社が関わる工程の前段階)。この費用についても東電は公表していないが、「汚染水1トンあたり1000万円程度となる可能性もある」(米原子力企業幹部)という。
しかし、アメリカが提案した原子炉を水で満たす水棺は、格納容器から水が漏れて失敗に終わった。失敗を承知の上で米国が水棺を迫ったわけではないのだろうが、漏れ出した汚染水で商売をしているのだから、結果的にはマッチポンプである。
そもそも日本企業では汚染水の処理はできないのか。汚染水問題が起きると想定して研究を進め、処理技術を東京電力に提案していた東京工業大学原子炉工学研究所所長の有冨正憲・教授がいう。
「私が東電に提案したのは、フェロシアン化鉄の粉末を使って水と放射性物質セシウムを分離し、凝集沈降剤で固める方法です。アレバの技術と理論は同じですが、放射性セシウムを95%以上除去できることが確認され、費用は汚染水1トンあたり10万円以下です。凝集沈降剤の投入を遠隔操作するための施設や機器、作業員の確保が難点ですが、これらは日本のプラントメーカーの技術でクリアできる。処理は国内で十分に可能です」
にもかかわらず、菅官邸が莫大な費用を支払ってまで米仏に処理事業を発注した理由は実にわかりやすい。3月末の首脳会談でサルコジ大統領は「サミットでは菅首相に活躍の場を提供する」と約束し、菅直人・首相はサミット冒頭のワーキングランチで「原子力の安全性向上」を宣言する“晴れ舞台”を与えられた。そしてオバマ、サルコジの両首脳が後ろ盾となったことで、反原発国のドイツやカナダからの批判は最小限にとどまった。
この首相は自らの立場を守るために、“ハゲタカ原子力企業”に「国賊手形」を振り出したのである。
※週刊ポスト2011年6月10日号