原発事故を機に自然エネルギーに期待を寄せる人が増えている。そうした人たちを勢いづかせるデータも出てきた。5月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した「再生可能エネルギーに関する報告書」である。多くの報道で「2050年にはエネルギー供給の最大77%が再生可能エネルギーに」と書かれたが、原文はそんな内容ではない。
報告書には164通りの「シナリオ」があり、「77%」というのは、そのなかで最も極端な仮説である。実際には半数以上のシナリオが、「2050年には再生可能エネルギーが27%を超える」と予測しているから、およそこれくらいが世界の科学者、技術者の常識的な見方だと考えればよい。
また、同報告書から引用される数字として、現状の再生可能エネルギーが全体の12.9%を占める、というものがある。
「なかなかやるじゃん」と思ったら大間違いで、内訳をみると、その8割を占めるのが「バイオマス」で、うち7割が「薪炭材」、すなわち「まき」なのだ。
アフリカなどの途上国では、まだ煮焚きに「まき」を使っている。確かに「自然」だが、温暖化阻止にも森林保護にもよくないことは議論を要しないだろう。「まき」を除く再生可能エネルギーの普及率はわずか6%しかなく、「太陽光」は0.1%、「風力」は0.2%である。
本誌も原発政策は転換すべきで、再生可能エネルギーも利用すべきだと考える。だからこれまでも、地熱や中小水力発電の開発に可能性があると書いた。あまりにも現実離れした話には与せない。自然エネルギーで原発代替という人々の主張は原発推進派のセリフとそっくりである。「クリーンです」「安全です」「経済的です」――。
そんな万能エネルギーはないのである。空理空論をバラ撒くより、現実的な議論を進めるべきだろう。
※週刊ポスト2011年6月10日号