エイズが医学的に認知された1980年代初頭から1990年代に比べると大きく報道されることはなくなったが、日本では確実に感染者が増えている。既にエイズ患者とHIV感染者の合計数は1万8000人を超える。
「2008年まではHIV検査を受ける人が増加したのに比例して感染者数も増えていた。2009年は検査数が減少したのに伴って感染者数も減少。ところが昨年は、検査数が減っているにもかかわらず、感染者数が増えた。これは、人口全体に占める感染者の割合が増えているからだと考えられます」(厚生労働省疾病対策課担当者)
また、日本においては「同性愛者の病気」「海外で買春してもらってくる」といったイメージが強かったが、それは過去のもの。近年では新規判明者のうち同性愛者の占める割合は5割ほどに減っている。また、数の上では海外ではなく国内での感染が圧倒的に多いのだ。
そして今回判明した調査結果でとりわけ顕著なのは、感染者の“高齢化”が進んでいることだという。
「昨年のデータでは、40代以上とともに60代以上の新規感染者数が増えています。例えば、熱が出るなど体調が悪いため、風邪かと思って病院に行き、“念のため”ということでHIV検査を受けて感染が見つかったり、なかにはカポジ肉腫やカリニ肺炎が発症してから、エイズを発症していることがわかったケースもあります」(同前)
感染者の高齢化は、現場の医師らも実感している。独立行政法人国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センターの本田美和子医師がいう。
「当院では3000人あまりの患者さんを診ていますが、その5人に1人は50代以上。現実問題として、エイズは決して若い人の病気ではありません。診断時の最高齢は男性で82歳、女性でも70歳を過ぎた方が通院中です」
しかも、高齢者の潜在的な感染者は相当数いると見られている。
「日本ではそもそもHIVの検査数自体が欧米に比べて格段に少ない。それでも若い人たちの場合は、つき合い始めたカップルが“ラブチェック”として一緒に検査を受けることが珍しくないのですが、中高年は検査にはほとんどいかない。実際の感染者はずっと多いのでは」(前出・厚労省疾病対策課担当者)
※週刊ポスト2011年6月10日号