【書評】『大津波と原発』(内田樹、中沢新一、平川克美著/朝日新聞出版/777円)
【評者】香山リカ(精神科医)
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大震災発生以来、私たちはどうしても、その日その日の情報を追いかけてすごしてきた。しかし、今こそ必要なのは“大ぶりの話”、つまり文明史的な観点から今回の未曽有の災害や原発問題を語ること。そんな主旨で、一筋縄ではいかない論客3人が集まった。そう厚くはない一冊だが、今後の日本を考える上で重要なキーワードがちりばめられている。
たとえば、「原発は日本における一神教」というワード。中沢氏は、「決定的に今までのものとは構造が異なって」いるにもかかわらず、深くその原理や意味などが考えられることもなく、大量生産、大量消費を至上命題とする経済と結びついてとにかく「やみくもに推進」されてきた原発こそ、日本にかつてなかった一神教なのではないか、と発言する。
だとしたら、それは神仏習合、なんでもアリでやって来た日本にとっては、そもそもきわめてなじみにくい存在だったはずだ。中沢氏の発言を受けて内田氏はこう言う。「一神教的な遠い神に弱いんだよ、日本人は。荒ぶる神を鎮める方法を知らないんだ」。
だから原発事故はいつまでも収束しない、というのは飛躍がありすぎかもしれないが、たしかに不可侵の大聖堂さながらの原発に近づけず、周辺から水をかけたり取水口におがくずを詰めたりしている私たちの姿は、唯一神の出現に戸惑う民のようにも思える。
なんだ、現実離れの文化論か、と鼻白むなかれ。座談会の後半で、中沢氏はこれまでのエネルギー革命や農業政策、エコロジー思想などを超えた「エネルゴロジー」を提唱し、それを実現するために「日本版・緑の党」を発足させたい、と語る。
これはネットでも「中沢新一、政党立ち上げか」などとかなり大きな話題となったので、目にした人も多いだろう。興奮する内田氏が、党のヴィジョンをきくと、中沢氏は「まあお待ちください。そのうち宣言と綱領が出ます」と前向きともあいまいともつかない答えを返す。
本気で期待しています!
※週刊ポスト2011年6月17日号