東京・立川市にある立川競輪場を運営する立川市は、電光掲示板や照明などで大量の電力を消費する競輪場の経費削減に頭を痛めていた。そして、電力の購入先を東電から特定規模電気事業者(PPS)のサミットエナジー(本社・東京都)に切り替えたのは昨年4月のことだ。
効果は覿面だった。同競輪場が支払った2010年度の電気料金は4500万円で、前年度(6200万円)からの3割削減に成功したのである。同市行政経営課の田中準也・課長が回想する。
「見積もり段階で安いことはわかっていたつもりですが、最初の請求書が届いた時には、“こんなに安くなるのか”と目を疑ったほどです。5月で比較すると、2009年の使用量は約16万kWhで480万円。10年は20万kWhと増えましたが380万円でした」
立川市では今年度、市立の小中学校や図書館など53か所の公共施設で「電力供給」の競争入札を実施。するとすべての施設でPPSが東電より約2割安い金額で落札した。「競輪場を含めると、市の年間の電気代は年間約5000万円減と見込んでいます」(同前)というから驚きだ。
PPSとは自前の発電所などから調達した電気を販売する電気事業者のこと。2000年の電力自由化で設立が可能になり、現在は契約電力50kW以上の需要先に販売が認められている。
東京電力をはじめとする10電力会社の料金は、発電などに要したコストに一定の利益(現在は3%)を上乗せして決まる。「総括原価方式」と呼ばれる仕組みだ。そのため、「コストをかければかけるほど多くの利益を得られる」という奇っ怪なビジネスモデルが営々と続き、電力会社のコスト削減や技術革新の意識を失わせてきた。
一方、市場競争にさらされるPPSは発電所建設費や人件費、広告宣伝費を削ることでコストを抑え、廉価販売を可能にした。送電線は既存電力会社の電線を使用するので電気料金には1kWh当たり約4.5円の「託送料」が上乗せされるが、それでも“殿様商売”の10電力に比べるとはるかに安く販売できるのである。
愛知・新城市では、今年7月から購入先をPPSのエネサーブ(本社・滋賀県)に切り替えることを決め、市役所庁舎など33施設で年間1500万円の電気代削減を見込んでいる。変更の過程ではこんなことがあった。
「検討中の3月に、中部電力さんから値引きの料金プランを提示されました。ところが、それでもエネサーブさんより高い。当然、購入先を変更することになりました」(同市行政課)
民間でも導入例は多い。東京メトロでは2006年にPPSと契約し、「初年度で銀座線の電気料金(年間10億7000万円)を1割削減できました。詳細は公表しておりませんが、その後も導入路線を増やしています」(広報部)
という。その他、ヤマダ電機や日本橋三越、旭化成ケミカルズ、東レ、三菱地所など、多様な業種がPPSに切り替えている。
※週刊ポスト2011年6月24日号