政府はメルトダウン、海水注入ほかの原発対応に追われている。だが、そうしたことより、現在の最優先課題は別にある、と大前研一氏は指摘する。
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先の内閣不信任決議案騒動、そしてその“前哨戦”となった、東京電力・福島第一原子力発電所1号機への3月12日の海水注入作業をめぐる茶番劇に呆れ果てた人は多いと思う。
5月23日の衆議院東日本大震災復興特別委員会で自民党の谷垣禎一総裁が「55分間の注入中断」について菅直人首相の責任を追及。原子力安全委員会の班目春樹委員長が海水注入による再臨界の可能性に言及した云々が問題視された挙げ句、実は福島第一原発の吉田昌郎所長の判断で注入が継続していたことが判明したわけだが、震災直後の対応はすでに「遠い過去」の話である。
果たして、今そんなことを論じている場合なのか? もちろん事故対応の検証は大切だが、福島第一原発1~3号機は3月16日の時点ですべて炉心溶融し、海水注入に関係なくオシャカになってしまっている。3月末に適度の冷却が達成されたことで、原子炉が暴走する危険性はすでに遠のいている。今後は水をクローズドループで循環させるシステムを確立して3~5年間冷却を続けながら、原子炉にテントをかぶせて放射性物質の飛散を防ぎ、冷却に使われない放射能汚染水の処理に取り組んでいくしかない。
今、政府が判断を迫られている問題は、原発周辺で暮らしていた避難者の帰宅可能エリアとタイミングを見極め、避難の必要性の乏しい住民の帰宅を認めることである。惰性で何となく避難生活を強い続けた場合、毎月約1兆円もの賠償金が積み上がっていくと思っていたほうがよい。そしてそれは結局、東電に賠償能力がない以上、納税者の負担として重くのしかかるのだ。
※週刊ポスト2011年6月24日号