近年、「生物多様性」というキーワードをよく耳にする。いわく、「生物の種類が年々減っている」「絶滅危惧種を守らなければいけない」……至極ごもっともに思えるこれらの主張。だが、果たしてそれは本当か? 話題の新刊『生物多様性のウソ』(小学館101新書)を著わした武田邦彦氏が、そこに潜む偽善と欺瞞を喝破する。
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いまや「生物多様性」は先進国と途上国の利権争いとなっており、「トキがかわいそう」などと情緒的に考えている国は世界でただ日本だけなのだ。
すでに東京ではゲンゴロウが絶滅している。ゲンゴロウさえ守れない人がトキを守ることに熱心なのは滑稽でもある。
外来種についても同様で、日本では外来種は駆除して在来種は守るのは当たり前のことのように考えられているが、そもそも日本の生物が多様なのは、四季があり、寒い地域と暖かい地域の両方から外来種が入ってきたからである。
日本にブラックバスが入ってきてすでに1世紀近くが経つが、この魚が嫌われるのは食べてもあまり美味しくないという理由だけである。フナより美味しくて高額で売れるのなら、喜んで繁殖させるはずである。
このように「生物多様性」とは、欺瞞とご都合主義の産物なのだ。まず、このことを理解しなければ、本当に自然を守るとはどういうことなのかが見えてこない。弊著がこの問題を自分の頭で考える一助になればと願っている。
※週刊ポスト2011年6月24日号