福島第一原発事故を受け、「年間で浴びる放射線量」の議論が高まっているが、原発の専門家である大前研一氏はどのように考えているのか。以下、同氏の提言だ。
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現在、政府は学校での屋外の活動を制限する放射線量の目安を年間の累積で20ミリシーベルト以下としながら、保護者や市民の不安が高まっていることを受けて上限は変えないまま「1ミリシーベルト以下に抑えることを目指す」というあやふやな方針を示している。
だが、そもそも20ミリシーベルトには、何の根拠もない。科学的に有意差が出る(発がん率が高まる)のは200ミリシーベルト以上である。したがって、私自身は避難者を帰宅させる放射線量の基準について、上限を200ミリシーベルトに設定するのが妥当だと考えている。
その上で政府がやるべきは、各地の放射線量を正確に測って安全な場所を見つけることだ。そして帰宅する住民に蓄積線量計を配り、目安の半分の100ミリシーベルトに達したら報告してもらい、再び避難を希望する人には援助の手を差し伸べる。そういうガイドラインを周知徹底すればよいのである。
1979年に起きたスリーマイル島原発事故の後、アメリカ政府は非常に正直に情報公開し、有事に備えて定期的に緊急避難訓練などを実施することで地元にとどまる住民の不安の払拭に努めた。その結果、大半の住民から原子力アレルギーがなくなり、原発と共存しながら安心して生活を続けることができるようになったのである。それと同じことを、これから日本政府はやらねばならないのだ。
※週刊ポスト2011年6月24日号