長年にわたって在日朝鮮人たちのランドマークであり、北朝鮮の駐日大使館のように振る舞ってきた東京・千代田区富士見の朝鮮総連中央本部(朝鮮中央会館)の土地建物がいよいよ競売にかけられようとしている。それは総連にとって、単に象徴を失うのみならず、組織解体の決定打となる可能性が高い。ジャーナリストの野村旗守氏が報告する。
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原因は、2000年を前後して相次いで破綻に陥った各地の朝銀系信用組合の不良債権問題である。整理回収機構(RCC)は破綻した複数の朝銀信組から合計1533億円分の不良債権を引き継いだが、このうち約41%にあたる627億円が事実上総連に対する融資であったとして、2005年11月、朝鮮総連に返済を求める訴えを起こした。
この訴えは認められ、RCCは東京地裁に会館の競売を申し立てたが、登記上は合資会社「朝鮮中央会館管理会」の所有となっていたため、強制執行を行なうことができなかった。このためRCCは会館の実質的な所有者が朝鮮総連であることの確認を求める訴訟を新たに起こし、2009年に勝訴。総連側はこれを不服として控訴したが、昨年12月に高裁で棄却されていた。
朝鮮総連は翌月の今年1月、さらに最高裁に上告。会館は現在、RCCによって仮差し押さえ中である。というのも、裁判の過程で、競売逃れを目的としたと思われる名義書き換え事件が発覚したことがあったからだ。07年6月、元公安調査庁長官の緒方重威氏が社長を務める投資会社に会館の所有権が移されていたことが判明し、大騒ぎになったのは記憶に新しい。同じ轍を踏まないための仮差し押さえ申請である。
総連側はこれにも異議申し立てしたのだが、今年3月またしても却下されてしまう。異議が認められなかった以上、2審判決が最高裁でひっくり返る可能性は限りなく低いとみなさざるを得ない。出来ることならRCCに和解金を支払って示談としたいところだが、もはや総連の金庫に資金はない。
この時の総連側の衝撃を、現在関係者の間を駆け巡っているある文書は次のように伝える。
〈結果は明白なものでした。まさに旗があげられたのでした。平べったく語るならば、「被告(総連)の言い分は通りません」と言うものです。総連側の弁護団は黙ったまま席を立ったといいます。(略)メガトン級の激震が副議長室に走りました。許宗萬はそれなりの覚悟はしていたものの、暫くは全身の震えを抑えることが出来ませんでした。(略)ある中央の最高級幹部は、「チョッタマリジ。やっぱり負けたか…」と、独り言のように呟いたそうです〉
※SAPIO 2011年6月29日号