昼間でも薄暗い雑木林を抜けると、眼前に古いテレビのバリケードが現われた。1970年代に開発された三重県下の造成地。積み重なったテレビからは赤褐色に変色した雨水が滴り落ちる。さらに山林を進むと、道の両脇にはおびただしい数のブラウン菅が転がり、破片が記者の足に噛みついてくる。
7月24日に地デジ完全移行が行なわれれば、アナログテレビは無用の長物と化す。不法投棄が全国で最も多いのは大阪府だ。大阪市環境局事業部によれば、「2008年度1857台、2009年度2406台、2010年度2915台と不法投棄数は年間2~3割のペースで増えている」という。
ブラウン管テレビの不法投棄は環境に深刻な影響を及ぼす。背面で使われる「ファンネルガラス」には人体に有害な鉛が含まれており、適切な処理をしないまま野ざらしにすれば、雨水に混じって流出し、土壌や地下水を汚染する。
いかにもドキュメンタリー番組が取り上げそうな社会問題だが、報じられることはない。地デジ化はテレビ局にとって大きな旨味のある事業だからだ。
造成地近くに住む男性が頭を抱える。
「看板を立てて警告しても何の効果もない。特に今年に入ってからはテレビを捨てていくトラックがひっきりなしだ」
「墓場」に積まれたブラウン管は、地デジ強行の大罪を鮮明に映し出している。
撮影■杉原照夫(WEST)
※週刊ポスト2011年7月1日号