今、世界の紛争地・危険地域で「武装した民間人」の姿を見ない日はない。ライフルを持って、防弾ベストを着込んでいるが、軍服は身につけていない。PMC(Private Military Company=民間軍事会社)と呼ばれる彼らは、これまで軍隊の任務であった作戦業務を「ビジネス」として請け負っている。彼らは一体、何者なのか。国際政治アナリストの菅原出(すがわら・いずる)氏が解説する。
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米国においては長い間、軍需産業と軍や国防総省などのつながりが「軍産複合体」と呼ばれ、国家の軍事的な政策を共に推進してきた。この発展形として近年注目を集めているのがPMCと呼ばれる企業群である。民間セクターが「兵器」のみならず、「人的資源」を提供するようになったということだ。
イラクやアフガニスタンなどの紛争地域ではPMCの要員たちが、政府の要人を警護したり、大使館の警備にあたったりしている。彼らは自動小銃などで重武装しているが、正規軍の軍人ではない。西側のPMCに雇われた、れっきとした“ビジネスマン”なのである。
PMCで働く職員の多くは、米国ならレンジャー部隊、グリーンベレー、デルタフォースなどの特殊部隊に属していた者、英国ならSAS(特殊空挺部隊)や王室関係警護担当者など、超エリート部隊の出身者だ。
彼らの報酬は高い。イラク戦争の一時期は、一流企業のPMCになると、3~4か月間で3万3000ドル(約260万円)相当の報酬が支払われた。中には年俸20万ドル(約1600万円)以上を稼ぐ優秀な職員もいた。この額は、米軍の平均年収の約3倍に相当する。確かに、魅力的な金額である。
現在、イラクには4万5000人の米軍に対して1万8000人のPMC部隊、アフガンには10万人の米軍・NATO軍に2 万6000人ものPMC部隊がサポートしている。
※SAPIO 2011年6月29日号