大津波にあって海岸沿いは全滅し、原発からは10数キロ~40キロ圏内にある南相馬市。一部は強制避難させられ、一部は屋内退避(震災当初)。また、一部は30キロ圏内で放射能は怖いが、生活は自由。『がんばらない』著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が、この町の現在を報告する。
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6月10日、僕は、南相馬に講演に行った。町では、地元の企業である「落合工機」に中東のオマーンから、約26億円の浄水器の大量発注があったという元気なニュースで沸いていた。その会社の斉藤秀美社長に話を聞いた。
オマーンとの取引は、昨年の12月からだったという。「オマーンの王族系企業からの依頼だったのですが、最初は雲をつかむような話で、詐欺にひっかかってはいけない――と疑っていたのです」と斉藤社長は笑う。
実は、その話をまとめたのは、中東の農業支援をしているNGOが母体の企業、J-action。ここと事業組合を設立し、中東向けに移動式の小型浄水器24台を作るというのが事の始まりだった。アフリカやアラブの耕作不適格地の土壌改良をし、浄水を提供できるのは、なんてやりがいがある仕事だろうと思ったらしい。
しかし、3.11の大震災で落合工機は大打撃を受けた。従業員の家は津波で流され、原発事故による屋内退避で工場は稼働停止。斉藤社長は「会社がつぶれてしまう」となかば諦めかけていた。
そこへ、再びオマーンからの浄水器の発注である。しかも700台の浄水器と14台の大型浄水器を合わせて、26億円という願ってもいない大きな契約。そしてさらに温かなサプライズの申し出が上乗せされていた。
被災者の役に立つのなら、その新品の浄水器を被災地で使い、その後にオマーンに届ければいいという注文だったのだ。
オマーンの王族系企業は、被災地の企業の連携の中で浄水器を作ってほしいと言ってきた。斉藤社長によれば、南相馬の20社近くの企業に仕事が回る予定だという。お互いに部品を調達し、南相馬の経済が回り出す。
オマーンの企業には、26億円を日本赤十字社を通じて寄付するという方法もあったはずである。しかし、それをしなかったところがえらい。
※週刊ポスト2011年7月1日号